■風神雷神 風の章/雷の章
作者:柳広司
出版社:講談社
発売日:2017/8/30
ページ数:【風の章】 260ページ 【雷の章】 276ページ
【風の章】
扇屋 「俵屋」 の養子となった伊年は、
醍醐の花見や、出雲阿国の舞台、また南蛮貿易で輸入された数々の品から意匠を貪っていた。
俵屋の扇は日に日に評判を上げ、伊年は 「平家納経」 の修理を任される。
万能の文化人・本阿弥光悦が版下文字を書く 「嵯峨本」、
「鶴下絵三十六歌仙和歌巻」 下絵での天才との共同作業を経て、伊年の筆はますます冴える。
【雷の章】
妻を娶り、二人の子を生した宗達は、
名門公卿の烏丸光広に依頼され、養源院の唐獅子図・白象図、相国寺の蔦の細道図屏風を制作する。
法橋の位を与えられ禁中の名品を模写し、古今東西のあらゆる技法を学んだ宗達。
盟友が次々に逝くなか、国宝・関屋澪標図屏風、
重要文化財・舞楽図屏風を描いた天才絵師は、国宝・風神雷神図屏風で何を描いたのか。
(「BOOK」データベースより)
「前回読んだ 『画狂其一』 がそれなりに面白かったので、
他に琳派の絵師を主人公にした小説はないかと探してみたところ、この本を発見いたしました。
まさか “琳派の祖” 俵屋宗達を主人公にした小説を、
『ジョーカー・ゲーム』 シリーズでお馴染みの柳広司さんが書いていたとは!
これは、絶対に面白いに決まってます!
と読み始めて、最初の1分で確証しました。
はい。面白い。間違いないです。
で、そのまま2巻目のラストまで、一気読みしてしまいました。
《風神雷神図》 を含む3件の国宝と11件の重要文化財。
それ以外にも数多くの傑作を残しておきながら、
実は生没年不詳、町絵師としては異例の法橋の位が与えられていた理由も不明。
と、俵屋宗達は、とかくわからないことだらけ謎だらけの人物です。
そんなに記録が残っていないだなんて、
鎌倉時代とか室町時代とか古い時代の人物なのかと思えば、活躍したのは江戸時代初期とのこと。
“なぜ、ここまで素顔がわからない人物なのだろう??”
と、これまで彼の作品を前にするたび、そのことが気にはなっていたのですが。
《源氏物語関屋及び澪標図》
《蔦の細道図屏風》
目の前にある作品のデザインセンスが素晴らしくて、
“まぁ、どんな人物でもいっか” と、深く考えるのを放棄していました。
ゆえに、何年経っても、僕の中での俵屋宗達像はこんな感じだったのですが↓
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この小説を読んだことではじめて、俵屋宗達像がバシッと確立されました。
“俵屋宗達って、こういう人だったのかもなァ” じゃなくて、
“俵屋宗達って、こういう人だったんだ!” と、説得力があります。
宗達を主人公にした小説というよりも、
宗達の人生を丹念に描いたドキュメンタリーかのよう。
もしかしたら、柳さんは、宗達本人に会ってきたのでは?
で、半生を聞いてきたのでは?
研究者ですら、いまだによくわかっていない宗達像が、
ここまでハッキリと生き生き描けるだなんて、きっとそうに決まってます。
「伊年」 という号をやめた理由や、《風神雷神図》 にサインがない理由、
本阿弥光悦が京の奥地だった鷹峯に芸術村を作った理由、そこに宗達が移り住まなかった理由、
屏風は六曲一双が当たり前だった時代に、宗達は二曲一双の屏風を多く手がけた理由など、
宗達に関する様々な謎の答えは、小説の中で違和感なく明らかにされていました。
直接インタビューしたわけでないのなら、柳さんの手腕はお見事としか言いようがありません。
尾形光琳が俵屋宗達を私淑したように、僕も柳さんを私淑しようかと思います。
ただ、私淑しようとしておきながらなんですが。
ちょいちょい豊臣秀吉や徳川家康の政策、
当時の歴史についての私見が挟まれるのは、まぁ、もどかしかったです。
それはそれで面白くなくはないのですが、
柳さんの私見コーナーに突入するたびに、早く本筋である宗達の話に戻らないかなぁとモヤモヤ。
宗達の絵画を見習って、余計な枝葉はスッキリと省いて欲しかったです (笑)
(星4.5つ)」
~小説に登場する名画~
《風神雷神図》