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Channel: アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】
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SPARK ―あの時君は若かった―

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現在、ホキ美術館で開催されているのは、“SPARK ―あの時君は若かった―” という展覧会。
ホキ美術館を代表する写実画家たちは、若き日はどんな作品を描いていたのか?
そんな若き日の貴重な作品を公開する展覧会です。
写実画家の皆さまにとっては、羞恥プレイのような展覧会ではなかろうか(笑)

例えば、こちらは、 “写実絵画界のトップランナー” 五味文彦さんが、写実を描き始めた頃の作品。


五味文彦 《隣人の囁き》 1991年


絵を描けない僕が言えた立場でないのは重々承知していますが。
ソファ全体を覆っているビニールシートの表現が、まぁまぁな感じでした。
それと、画面の表面の一部に、目立つヒビが入っていました。
間違いなく、今の五味さんなら、これらの問題を余裕でクリアできるはず。

YOUKO Ⅳ
五味文彦 《YOUKO Ⅳ》 2017年


あの五味さんでさえ、若い頃には、こんな時代があっただなんて。
天才は一日にしてならず。
たゆまぬ努力と研鑽があって、今の五味さんがいるわけですね。
本人的には、恥ずかしい以外のなにものでもないでしょうが。
明日の写実絵画のスターを夢見る若手には、勇気を与える展覧会である気がしました。
星星


ちなみに。

崇高なるもの
野田弘志 《「崇高なるもの」OP.6》 2016年 ホキ美術館


天皇皇后両陛下の肖像画を完成させたことで、
一躍時の人となった野田弘志さんの若き日の作品も紹介されていました。
それは、雑誌 『パーゴルフ』 の表紙絵。
実は、野田さんは、広告代理店のイラストレーターとして出発したそう。
『パーゴルフ』 の表紙絵の細密な画風で人気を博すものの、
日に日に油絵を描きたいという気持ちが湧きおこり、その無理がたたって、
30代で、大病を患い、入院してしまったのだとか。
それを機に、画家の道を進み、今では天皇皇后両陛下の肖像画を描くほどに。
サクセスストーリーです。


さてさて、今回出展されていた中で、強く印象に残ったのは、
青木敏郎さんによる 《模写 フェルメール「デルフトの展望」》


青木敏郎 《模写 フェルメール「デルフトの展望」》 1978年 作家蔵


フェルメールの 《デルフトの眺望》 は、言わずと知れたマウリッツハイス美術館の門外不出の名画です。
誰でも、この絵の模写が許されるというわけでなく。
なんと、青木さんが模写の許可を受けた史上2人目の画家だったのだそうです。
しかも、完成作は話題を呼び、地元の新聞で大きく取り上げられたとのこと。
マウリッツハイス美術館の館長も、この作品を是非買い上げたいと申し出たほどだったそう。
青木さんがその申し出を断ってくれたおかげで、
この絵が、こうして日本で観られるのかと思うと感慨深いものがありました。
いずれ実物を観たいとは思っていますが、その精巧な模写が観られて、ひとまず満足。
web上や印刷物で見るよりも、実物はわりかし立体的でした。
特に画面下 (手前?) の陸地には、引っ掻いたような跡が多々あり、意外にも荒々しい印象。
実物もそうなのでしょうか。
あぁ、答え合わせがしたい!
この秋の “フェルメール展” に、《デルフトの眺望》 が来てくれたらいいのに。


そうそう。模写と言えば、初画集が話題沸騰中の若手人気写実画家・塩谷亮さん。



その彼が、10年近く前に、《キリストの洗礼》 を模写した作品も出展されていました。


(参考図版:アンドレア・デル・ヴェロッキオ工房 《キリストの洗礼》


模写と言っても、全体の一部。
ヴェロッキオが描いたとされる部分は、バッサリ無視され、
レオナルド・ダ・ヴィンチが描いたとされる左端の天使のみが模写されています。


塩谷亮 《模写 ヴェロッキオ工房「キリストの洗礼(部分)」》 2009年


模写ではあるのですが、優しげな肌の質感は、塩谷亮さんの作風そのもの。
レオナルド・ダ・ヴィンチ感は、ほとんどなかったです。
完コピというよりは、カバー曲といった印象を受けました。


最後にご紹介したいのは、石黒賢一郎さんの 《VISTA DE NAJERA》 です。


石黒賢一郎 《VISTA DE NAJERA》 2005年


先日トークショーでご一緒した際に、この若き日の風景画を前にして、
「この絵は、死ぬほど面倒くさかった!」 と連呼していた石黒さん。
「二度と風景画は描くものか!」 と、心に固く誓ったそうです。


石黒賢一郎 《完全防備しなければならない》 2016年
防護服


“いや、でも、結局、今だって防護服の皺を1つ1つ描く絵を描いてるじゃん・・・”

と、心の中で思いましたが、トークショーでは言わないでおきました。
「面倒くさい!」 から名作を生み出す男。
それが、宮崎駿と石黒賢一郎。




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