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Channel: アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】
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子どものへや トラフ建築設計事務所

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今年2018年は、いわさきちひろ生誕100年の節目の年。
それを記念して、東京と安曇野、両方のちひろ美術館では、「Life」をテーマに、
7人 (組) の作家とコラボする展覧会シリーズ、“Life展” が1年を通じて開催されています。
ちひろ美術館・東京での “Life展” は、このブログで欠かさず紹介してきましたが、
安曇野ちひろ美術館で展開中の “Life展” に関しては、ずっとスルーし続けてきたまま。
さすがに、それは申し訳ない気がしてきたので、
先日、思い切って、安曇野ちひろ美術館を初訪問してまいりました。


やってきたのは、JR大糸線の信濃松川駅。
ここから歩いて、美術館を目指します。




美術館までの距離は、2.5㎞。
約30分の道のりです。




一面の田んぼ、そして、一面の北アルプスを眺めながら、ひたすら歩きます。
ふと周囲を見渡してみると、僕以外に歩いている人は皆無。

‟・・・・・・・・この先に、本当に安曇野ちひろ美術館があるのだろうか?”

心に不安が滲みました。
まるで、ちひろの水彩画のように。

それでも進むこと、約30分。
何やら電車らしきものが見えてきました。





あれは、もしや?!

そう、ちひろ美術館館長の黒柳徹子さんの著書、




『窓ぎわのトットちゃん』 に登場するあの 「電車の教室」 です。
内部も完全再現。
実際に、さっきまで生徒たちが授業を受けていたかのようなリアリティがあります。




ちなみに、電車は2両編成。
もう1つの車両は、500冊の本を手に取って楽しめる 「電車の図書室」 となっています。




このワクワクするシチュエーションに、30分の歩き疲れが一気に吹き飛びました。
「電車の教室」 と 「電車の図書室」 を見ただけでも、
十分に安曇野に来た甲斐がありましたが、本題はここから。
“Life展” を見に来たのでした。
後ろ髪を引かれる思いで、その先にある安曇野ちひろ美術館へ。




スタッフさんに、訪問した旨を伝えると、
何やら若干不思議がった様子で、学芸員さんに連絡を入れてくださいました。
で、待つことしばし。
学芸員さんがやってきました。
そして、一言。

「まさか裏側から、いらっしゃるとは」

あれっ?こっちが正面じゃないの??
駅から歩いてきたら、こちら側に辿り着いたことを伝えると、
「えっ?歩いてきたんですか?」 と、さらに驚かれてしまいました。
どうやらほとんどの方は、車やタクシーで来館されるそうです。

というわけで、改めて、美術館の正面へ。




三角の屋根が連なって、どことなく北アルプスを彷彿とさせる建物です。
そんな感想を伝えると、学芸員さんが、
「正面の三角屋根と大洞山が重なって見えるんですよ」 と教えてくれました。





ちひろ美術館・東京は、住宅街に溶け込むような建築ですが、
安曇野ちひろ美術館は、まさに雄大な自然に溶け込むような建築です。
さて、そんな安曇野ちひろ美術館で、
現在開催されている “Life展” は、“子どものへや トラフ建築設計事務所”
鈴野浩一さんと禿真哉さんによる建築ユニット、トラフ建築設計事務所とのコラボ展です。
トラフ建築設計事務所と言えば、
誰でも一度はミュージアムショップで目にしたことがあるであろう 《空気の器》
美術館のいたる所に、《空気の器》 がプカプカと浮かんでいました。




よく見ると、多くの 《空気の器》 が、帽子の形となっています。




実は、それこそが展覧会の重要なキーワード。
今回の展覧会を開催するにあたって、
トラフ建築設計事務所のお二人が、改めてちひろ作品をチェックしたところ、
子どものへやを具体的に描いた作品が、ほとんどないことに気が付いたのだそうです。
その代わり、帽子をかぶった子どもが多く描かれていることに気づいたのだそう。

「子どもにとって “帽子”とは、まわりの環境から自分を守ってくれる小さな部屋なのでは?」

という着想から、帽子を切り口とした展覧会となっています。
最初の展示室では、帽子が描かれたちひろ作品が紹介されていました。


(注:館内の写真撮影は、特別に許可を頂いております。)


「ちひろ作品=帽子」 というイメージはありませんでしたが、
確かに、指摘されてみると、帽子を描いたちひろ作品は多いですね。
しかも、帽子の種類もさまざまです。





いわれてみれば、『窓ぎわのトットちゃん』 の表紙の女の子も帽子をかぶっていました。




なるほど。
ちひろ作品と帽子の関係は、意外性があって興味深かったです。
ただ、さすがに 「帽子=小さなへや」 ではないような・・・?
と思った矢先、こんな一枚に出逢いました。




あっ、帽子は小さなへやですね!
納得しました。
星星


また、こちらは、トラフ建築設計事務所が設計した 「子どものへや」 です。




モチーフは、ちひろが好んで描いたという麦わら帽子とのこと。
展覧会の会期中、この場所を使って、ワークショップやお話の会などが行われているそうです。


さてさて、ちひろ美術館・東京よりも、展示スペースの広い安曇野ちひろ美術館では、
“Life展” とは別に、“奇喜怪快 井上洋介の絵本展” という企画展が開催されていました。




こちらは、独創的な世界観で知られる絵本画家・井上洋介の大々的な回顧展です。
代表作の 『くまの子ウーフ』 をはじめ、絵本の原画の数々ももちろん紹介されていますが、




初期のエログロナンセンスな作品や、




少年時代に体験した戦災の記憶をもとに、
特に発表するわけでもなく生涯描き続けたというタブローなども紹介されています。




それらの作品を観てから、改めて、『くまの子ウーフ』 を観ると、
どこか狂気をはらんでいるようにも、どこかトラウマを抱えているようにも見えてきました。
目が笑っていません。




ちなみに、美術館内を散策中に気になるものを発見してしまいました。




リゾートホテルでしか見ないようなチェアです。
“なぜ、美術館にこんなチェアが??” と疑問に思い、
学芸員さんに尋ねてみたところ、こんな回答が返ってきました。

「ちひろ美術館・東京のコンセプトは、『世界初の絵本美術館』 ですが、
 ここのコンセプトは、『絵はみなくてもいい美術館』 なんですよ」

なんて斬新なコンセプト!
絵に興味が無い人は、是非、このチェアに寝そべって、
思う存分、北アルプスの雄大な自然を満喫してくださいませ。




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