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Channel: アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】
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あざみ野コンテンポラリー vol.9 今もゆれている

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横浜市民ギャラリーあざみ野で開催中の展覧会、
‟あざみ野コンテンポラリー vol.9 今もゆれている” に行ってきました。




こちらは、美術という枠や社会的評価にとらわれず、
様々なジャンルのアーティストが行っている表現活動に目を向けたシリーズ展の第9弾。
今回は、『風景』 をモチーフとした5人の気鋭のアーティストたちによる作品が紹介されています。

『風景』 をテーマにした展覧会と聞いて、
モネやコロー、広重のような抒情的な風景画の展覧会を想像していたのですが。
“今もゆれている” という、やや不穏な展覧会タイトルが暗示しているように、
「あぁ、キレイだなぁ」 の一言では片づけられない作品の数々が紹介されていました。


例えば、こちらは写真家の露口啓二さんによる 『自然史』 というシリーズ。




福島原子力発電所事故による帰還困難区域や、
同区域の境界線の周辺などで、あの震災から数年後に撮影された風景です。




自然の力によって、人が立ち去らざるを得なくなった場所を、覆い尽くすように生い茂る植物群。
その姿に暴力的なものすら感じました。
恐怖。おぞましさ。畏怖。無力感。
一見すると、のどかな印象すら受ける風景なのに、
作品と向き合えば向き合うほど、いろんな感情がゴチャ混ぜになって押し寄せてきます。
あの震災がまだ終わっていないことを、
そして、これからもずっと終わらず続いていくことを、改めて実感させられる作品でした。

そんな 『自然史』 シリーズとともに紹介されていたのが、
同じく東日本大震災をテーマにした今井智己さんの 《Semicircle Law》 シリーズ。




福島第一原発から30km圏内にある数か所の山頂から、
原発建屋にカメラを真っ直ぐに向けて風景を撮影したシリーズです。
原発建屋の姿が見えているものもあれば、
山や手前の木々に隠れてしまい、全く見えないものも。
とは言え、見えたものよりも、むしろ見えないもののほうが、
あの30km先に福島第一原発があるのだと、不気味な存在をより実感できたように思えます。
ちなみに、作品はすべて中途半端な角度に設置された壁に展示されていました。




実は、この壁の向いている方向、
あざみ野から約250kmの位置に、福島第一原発があるとのこと。
今もたっている、のですね。


展覧会で取り上げられているのは、震災をテーマにした作品ばかりではありません。
こちらは、沖縄生まれ沖縄在住のアーティスト石垣克子さんによる絵画作品。




描かれているのは、もちろん沖縄の風景です。
JTBのパンフレットに掲載されているような、
いかにも南国リゾート地・沖縄な風景も描かれていましたが。
その大半は、沖縄に今もなお残る米軍基地が描かれていました。




今もゆれている。
今まさにゆれている。
そんな沖縄の真の風景です。
正直なところ、この絵を観た第一印象は、
「わー、日本じゃないみたい!」 でした。
・・・・・いやいやいや。
冷静になって、自分がいかに沖縄の諸問題に無関心であるかを痛感させられました。
この “当たり前じゃない風景” が、日本のどこにでもある風景になりますように。


展覧会には、沖縄生まれで沖縄を拠点とするアーティストの作品がもう一つ出展されています。
映像作家の山城知佳子さんによる 《土の人》 です。




こちらは、あいちトリエンナーレ2016で発表され、
大きな話題となった映像作品で、沖縄と韓国の済州島を舞台となっています。
全編を通して、声や音が重要な要素となるこの作品。
今回の横浜市民ギャラリーあざみ野での展示では、
サラウンド音声で楽しめる特別ver.となっていました。
ネタバレにならないよう、内容には触れませんが、
良くも悪くも、全編約25分間、ずっと白昼夢を観ているな映像作品でした。
終盤のヒューマンビートボックスのシーン (←いきなりHIKAKINが登場したのかとビックリ) と、
クライマックスの満開のユリ畑で、土の人 (?) がリズムを刻むシーンは、圧巻も圧巻。
映像作品の登場人物たちのように、どこか違う世界へトリップしそうになりました。
あまりに強烈な映像体験でしたので、いまだに頭の片隅がグルングルンしています。
まさに、今もゆれている。
星


社会問題をテーマにした出展作家が多い中で、
ただ一人西村有さんが、何気ない日常の風景をモチーフにしていました。




彼女の描く絵は、どこか曖昧な印象。
「この風景を描きたい!」 というよりは、
「そういえばこんなことあったっけ」 と、記憶のかけらを弄びながら描いたかのような。

彼女の絵の中で特に印象に残っているのが、《scenery passing》 という一枚。




記憶の奥底にある風景を描いているようにも見えますし、
強い勢力の台風が街に直撃している光景のようにも見えます。
ちなみに、この記事を描いているのは、9月30日の深夜。
今ちょうど台風が関東地方を直撃しています。
窓がゆれている。




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