Quantcast
Channel: アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】
Viewing all articles
Browse latest Browse all 5005

Book:30 『フェルメールの街』

$
0
0



■フェルメールの街

 作者:櫻部由美子
 出版社:角川春樹事務所
 発売日:2018/9/13
 ページ数:330ページ

一七世紀オランダで、陶器の名産地として栄えた港町・デルフト。
父の死をきっかけに故郷へと戻った二〇歳のヨハネス・フェルメールは、
幼馴染のレーウことアントニー・レーウェンフックと再会する。
学問を志すも家庭の事情で叶わなかったレーウは、かつて友と交わした約束を忘れずにいた。
一方ヨハネスは、のちに妻となる女性と運命の出会いを果たす。
そのころ、街では陶工が次々と姿を消して──。
(Amazonより)


「現在、上野の森美術館にて、”フェルメール展” が絶賛開催中。
 ということで、謎多き画家フェルメールを主人公にした、こちらの小説を手に取ってみました。

 フェルメールは、元ガキ大将という設定で、人情味溢れる人物として描かれています。
 結局のところ、実際のフェルメールの人物像はわからないので、
 作者がフェルメールをどう描こうと自由なのは、重々承知なのですが。

 ‟いやぁ、こういうイメージじゃないんだよなぁ・・・”

 と、終始モヤモヤしました。

 また、フェルメールの画家としての一面だけでなく、
 宿屋兼酒場の亭主としての一面にも、スポットが当てられていました。
 友人たちと家業について語り合ったり、
 酒場の新たな顔となるビール探しに奔走したり。
 おそらく実際のフェルメールの人生でも、そういう出来事はあったでしょうが。

 ‟いやぁ、そういうシーンは求めてないんだよなぁ・・・”


 さてさて、この小説のもう一人の主人公は、レーウェンフック。
 歴史上はじめて顕微鏡を使って微生物を観察した人物で、「微生物学の父」 と呼ばれています。
 史実上、2人を結びつける資料は何も発見されていないそうですが、
 2人は同い年でご近所さん、さらに4日違いで同じ教会で洗礼を受けていることから、
 小説内では、親友という設定になっています。
 そんな2人の友情が物語の大きな軸となっており、
 前半は、若きフェルメールとレーウェンフックの青春小説といったテイストだったのですが。
 中盤でレーウェンフックが、身元不明の死体を発見してしまい、
 なぜかいきなりテイストが、2時間サスペンスドラマへと変貌!
 さらに、その死体が、大きな事件へと繋がり、
 物語の終盤では、とある組織的犯罪が明らかになります。
 えっ?その黒幕があの人?!
 しかも、それが原因で、あの事故が??
 ・・・・・これ以上、ネタバレをしないようにしますが、
 何はともあれ、後半は完全にバディもののハードボイルド小説となっています。

 全体を通して、コレジャナイ感が拭えない小説でした。

 
 フェルメールの絵画作品は、物語の要所要所で登場します。
 もちろん代表作の 《真珠の耳飾りの少女》《牛乳を注ぐ女》 も登場するのですが。
 かなり意外な形で登場していました。
 この小説を読んでから、《牛乳を注ぐ女》 を観ると、
 ついつい彼女の二の腕の筋肉に目が行ってしまいそうです (笑)

 
 
 
 それから、《ゴシキヒワ》 で知られる夭折の天才画家ファブリティウスが、

 


 フェルメールの師匠として登場するのは、個人的には嬉しかったのですが。
 その最期が、あまりにあっさりしすぎていたのは残念。
 キャラが立っていただけに、もう少し掘り下げてほしかったです。

 
 そうそう。
 フェルメールのミューズとして、妻カタリーナも主要人物の一人として登場します。
 一般的には悪妻のイメージが強いかもしれませんが、
 小説では、かなり込み入った事情を抱えた人物として描かれていました。
 フェルメール同様に、実際のカタリーナ像もわからないので、
 作者がカタリーナをどう描こうと自由なのは、重々承知なのですが。

 ‟なんで、こんな複雑な設定にしたのかなぁ・・・”
 
 
 仕事。友情。絵画。犯罪。結婚…etc
 全330ページの小説内に、いろいろな要素が詰め込まれていましたが、
 物語の全体像はぼやけてしまっており、結局のところ、作者は何を伝えたかったのか。
 極論、フェルメールが主人公でなく、
 ちょっと絵が巧い、ただの宿屋の親父が主人公だったとしても、小説としては成立していたような。

 期待していただけに・・・う~ん。
 なんか、ブルーな気持ちになりました。
 スター 半分星 ほし ほし ほし (星1.5つ)」


~小説に登場する名画~

《デルフトの眺望》


Viewing all articles
Browse latest Browse all 5005

Trending Articles