イギリスと縁の深い三菱一号館美術館で、現在、開催されているのは、
イギリス美術をテーマにした "ラスキン生誕200年記念 ラファエル前派の軌跡展" という展覧会です。
(注:館内の写真撮影は、特別に許可を得ております)
ラスキンと聞いて、"イギリスの清掃会社?" と、思われた方もいらっしゃるかもしれませんが。
ラスキンは、会社名ではなく、人名。
「ヴィクトリア朝きっての美術批評家」 と称された人物です。
ジョン・エヴァレット・ミレイ 《ジョン・ラスキンの肖像》 1853年、鉛筆、水彩、33.6×26 cm、
ラスキン財団(ランカスター大学ラスキン・ライブラリー) ©Ruskin Foundation (Ruskin Library, Lancaster University)
その彼が精神的な指導者の役割を果たしたのが、
19世紀のイギリスで活躍した前衛芸術家集団・ラファエル前派同盟。
当時の保守的でアカデミックな美術界に、
反逆の狼煙をあげた若い画学生7人からなるロックな集団です。
ちなみに、ラファエルとは、ルネサンスの巨匠ラファエロのこと。
イギリスの美術界が保守的なのもつまらないのも、
当時のアカデミー絵画のお手本であった "ぜんぶラファエロのせいだ。" と考えたメンバーらは、
「ラファエロよりも以前の時代の絵画に立ち返ろうぜ!」
という意味を込めて、ラファエル前派と名乗りました。
ラファエロは、とばっちりでディスられたようなものです。
今回の展覧会には、そんなラファエル前派の画家たちの名品たちが本場イギリスから来日。
保存の観点から公開される機会が少ない貴重な作品が、惜しげもなく公開されています!
それに加えて、ラファエル前派の第二世代に当たり、
2012年に三菱一号館美術館で大々的な個展が開催されたバーン=ジョーンズ、
その親友であり、アーツ・アンド・クラフツ運動を主導したウィリアム・モリス、
さらに展覧会の冒頭では、若きラスキンが批評家を目指すきっかけとなったターナーの作品も。
ターナーも、ラファエル前派も、アーツ・アンド・クラフツ運動も。
どれも日本では定期的に展覧会が開催される人気コンテンツです。
それらが、すべてまとめて楽しめてしまうイギリス美術の美味しいとこどりのような展覧会。
ラファエル前派の軌跡を辿る展覧会にして、奇跡の展覧会です。
さてさて、見どころはたくさんありましたが。
特に印象に残った作品をいくつかご紹介いたしましょう。
まずは、ラファエル前派の中心メンバーで、
ついつい 「ロセッティー!!」 と叫びたくなる (←僕だけ?) 彼の作品から。
ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ 《ウェヌス・ウェルティコルディア(魔性のヴィーナス)》1863-68年頃、
油彩/カンヴァス、83.8×71.2 cm、ラッセル=コーツ美術館 ©Russell-Cotes Art Gallery & Museum, Bournemouth
今展のメインビジュアルにも使われている作品です。
全体的には、確かに華やかなのですが、顔をよーく見ていると、
輪郭が歪んでいるような、目が離れているような、首が太いような、小顔過ぎるような・・・
写真を修整していたら、逆に違和感ありありになってしまった。
そんな印象を受けました。
そう感じたのは僕だけかと思いきや、
ラスキンもこの絵に対して、手紙でロセッティにダメ出しをしていたそう。
「花々は写実的なんだけどさ・・・うん・・・おそろしく粗雑だよね」
ただ、ロセッティの名誉のために言っておきますが、この他の作品は良かったですよ。
ちなみに、今展には、ラスキン自身が、
誰に見せるともなく描いていたという絵画もまとめて紹介されています。
美術評論家なんて、口だけの職業かと思っていましたが。
いやはや、普通に絵が巧かったです。
ロセッティへのダメ出しにも説得力がありました。
続いて、ラファエル前派のもう一人の中心メンバー、ジョン・エヴァレット・ミレイの作品。
ジョン・エヴァレット・ミレイ 《滝》 1853年、油彩/板、23.7×33.5 cm、
デラウェア美術館、サミュエル&メアリ・R・バンクロフト・メモリアル、1935年
©Delaware Art Museum, Samuel and Mary R. Bancroft Memorial, 1935
一瞬、8K映像のモニターが壁に掛けられているのかと、
錯覚してしまったくらいに、写実的で美しい色彩の作品です。
川の流れがリアルに感じられるほど。
タイトルは、《滝》 とのことですが、滝は一体どこに?
画面左に少し見切れているのが、滝なのか。
ちなみに、画面右の女性はラスキンの妻エフィ。
ミレイはエフィに対して、「今までこんな素敵な女性を見たことがない」 という言葉を残しています。
そういう意味での "フォール" なのかもしれません。
色恋沙汰がちょくちょく絡んでくるのが、ラファエル前派。
こちらのウィリアム・ホルマン・ハントの 《甘美なる無為》 という作品も、その例に漏れぬ一枚です。
ウィリアム・ホルマン・ハント 《甘美なる無為》 1866年、油彩/カンヴァス、101×81.2㎝
個人蔵(リヴァプール、ウォーカー・アート・ギャラリーに寄託)
もともとは、ハントの恋人であったアニー・ミラーなる女性だったそう。
しかし、辛辣な破局 (←どういう破局だよ) を迎えたため作品の制作は中断。
その数年後に、ハントと結婚したファニー・ウォーをモデルにして制作が再開されたのだとか。
左手には婚約指輪が嵌められていますが、その手のモデルは元カノだった可能性も・・・。
いや、元カノとの思い出の品を処分しろよ。
ちなみに、顔は何となく池上季実子に似ている気がします。
最後に紹介したいのは、バーン=ジョーンズの 《慈悲深き騎士》 です。
エドワード・バーン=ジョーンズ 《慈悲深き騎士》 1863年、水彩、ボディカラー、アラビアゴム、101.4×58.6 cm、バーミンガム美術館
©Birmingham Museums Trust on behalf of Birmingham City Council
とあるフィレンツェの騎士が、自分の兄弟を殺した男に復讐できる機会を得る。
しかし、彼はその男を赦し、さらには友情の手を差し伸べさえした。
そんな慈悲深き彼が木彫りのキリスト像の前で祈りを捧げていると、なんということでしょう!
木彫りの像が身をかがめ、彼を抱擁したのです。
・・・・・・・・・・・・・。
キリストの体勢がキツそうだから、もっと近づいてやれよ!
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イギリス美術をテーマにした "ラスキン生誕200年記念 ラファエル前派の軌跡展" という展覧会です。
(注:館内の写真撮影は、特別に許可を得ております)
ラスキンと聞いて、"イギリスの清掃会社?" と、思われた方もいらっしゃるかもしれませんが。
ラスキンは、会社名ではなく、人名。
「ヴィクトリア朝きっての美術批評家」 と称された人物です。
ジョン・エヴァレット・ミレイ 《ジョン・ラスキンの肖像》 1853年、鉛筆、水彩、33.6×26 cm、
ラスキン財団(ランカスター大学ラスキン・ライブラリー) ©Ruskin Foundation (Ruskin Library, Lancaster University)
その彼が精神的な指導者の役割を果たしたのが、
19世紀のイギリスで活躍した前衛芸術家集団・ラファエル前派同盟。
当時の保守的でアカデミックな美術界に、
反逆の狼煙をあげた若い画学生7人からなるロックな集団です。
ちなみに、ラファエルとは、ルネサンスの巨匠ラファエロのこと。
イギリスの美術界が保守的なのもつまらないのも、
当時のアカデミー絵画のお手本であった "ぜんぶラファエロのせいだ。" と考えたメンバーらは、
「ラファエロよりも以前の時代の絵画に立ち返ろうぜ!」
という意味を込めて、ラファエル前派と名乗りました。
ラファエロは、とばっちりでディスられたようなものです。
今回の展覧会には、そんなラファエル前派の画家たちの名品たちが本場イギリスから来日。
保存の観点から公開される機会が少ない貴重な作品が、惜しげもなく公開されています!
それに加えて、ラファエル前派の第二世代に当たり、
2012年に三菱一号館美術館で大々的な個展が開催されたバーン=ジョーンズ、
その親友であり、アーツ・アンド・クラフツ運動を主導したウィリアム・モリス、
さらに展覧会の冒頭では、若きラスキンが批評家を目指すきっかけとなったターナーの作品も。
ターナーも、ラファエル前派も、アーツ・アンド・クラフツ運動も。
どれも日本では定期的に展覧会が開催される人気コンテンツです。
それらが、すべてまとめて楽しめてしまうイギリス美術の美味しいとこどりのような展覧会。
ラファエル前派の軌跡を辿る展覧会にして、奇跡の展覧会です。
さてさて、見どころはたくさんありましたが。
特に印象に残った作品をいくつかご紹介いたしましょう。
まずは、ラファエル前派の中心メンバーで、
ついつい 「ロセッティー!!」 と叫びたくなる (←僕だけ?) 彼の作品から。
ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ 《ウェヌス・ウェルティコルディア(魔性のヴィーナス)》1863-68年頃、
油彩/カンヴァス、83.8×71.2 cm、ラッセル=コーツ美術館 ©Russell-Cotes Art Gallery & Museum, Bournemouth
今展のメインビジュアルにも使われている作品です。
全体的には、確かに華やかなのですが、顔をよーく見ていると、
輪郭が歪んでいるような、目が離れているような、首が太いような、小顔過ぎるような・・・
写真を修整していたら、逆に違和感ありありになってしまった。
そんな印象を受けました。
そう感じたのは僕だけかと思いきや、
ラスキンもこの絵に対して、手紙でロセッティにダメ出しをしていたそう。
「花々は写実的なんだけどさ・・・うん・・・おそろしく粗雑だよね」
ただ、ロセッティの名誉のために言っておきますが、この他の作品は良かったですよ。
ちなみに、今展には、ラスキン自身が、
誰に見せるともなく描いていたという絵画もまとめて紹介されています。
美術評論家なんて、口だけの職業かと思っていましたが。
いやはや、普通に絵が巧かったです。
ロセッティへのダメ出しにも説得力がありました。
続いて、ラファエル前派のもう一人の中心メンバー、ジョン・エヴァレット・ミレイの作品。
ジョン・エヴァレット・ミレイ 《滝》 1853年、油彩/板、23.7×33.5 cm、
デラウェア美術館、サミュエル&メアリ・R・バンクロフト・メモリアル、1935年
©Delaware Art Museum, Samuel and Mary R. Bancroft Memorial, 1935
一瞬、8K映像のモニターが壁に掛けられているのかと、
錯覚してしまったくらいに、写実的で美しい色彩の作品です。
川の流れがリアルに感じられるほど。
タイトルは、《滝》 とのことですが、滝は一体どこに?
画面左に少し見切れているのが、滝なのか。
ちなみに、画面右の女性はラスキンの妻エフィ。
ミレイはエフィに対して、「今までこんな素敵な女性を見たことがない」 という言葉を残しています。
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ウィリアム・ホルマン・ハント 《甘美なる無為》 1866年、油彩/カンヴァス、101×81.2㎝
個人蔵(リヴァプール、ウォーカー・アート・ギャラリーに寄託)
もともとは、ハントの恋人であったアニー・ミラーなる女性だったそう。
しかし、辛辣な破局 (←どういう破局だよ) を迎えたため作品の制作は中断。
その数年後に、ハントと結婚したファニー・ウォーをモデルにして制作が再開されたのだとか。
左手には婚約指輪が嵌められていますが、その手のモデルは元カノだった可能性も・・・。
いや、元カノとの思い出の品を処分しろよ。
ちなみに、顔は何となく池上季実子に似ている気がします。
最後に紹介したいのは、バーン=ジョーンズの 《慈悲深き騎士》 です。
エドワード・バーン=ジョーンズ 《慈悲深き騎士》 1863年、水彩、ボディカラー、アラビアゴム、101.4×58.6 cm、バーミンガム美術館
©Birmingham Museums Trust on behalf of Birmingham City Council
とあるフィレンツェの騎士が、自分の兄弟を殺した男に復讐できる機会を得る。
しかし、彼はその男を赦し、さらには友情の手を差し伸べさえした。
そんな慈悲深き彼が木彫りのキリスト像の前で祈りを捧げていると、なんということでしょう!
木彫りの像が身をかがめ、彼を抱擁したのです。
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