■美しき愚かものたちのタブロー
作者:原田マハ
出版社:文藝春秋
発売日:2019/5/31
ページ数:406ページ
日本に初めて 「美術館」 という概念をもたらした破天荒な実業家、松方幸次郎。
戦火のフランスで絵画コレクションを守り抜いた孤独な飛行機乗り、日置釭三郎。
そして、敗戦国・日本にアートとプライドを取り戻した男たち――。
奇跡が積み重なった、国立西洋美術館の誕生秘話。
日本人のほとんどが本物の西洋絵画を見たことのない時代に、
ロンドンとパリで絵画を買い集めた松方は、そもそもは 「審美眼」 を持ち合わせない男だった。
絵画収集の道先案内人となった美術史家の卵・田代との出会い、クロード・モネとの親交、
何よりゴッホやルノアールといった近代美術の傑作の数々によって美に目覚めていく松方だが、
戦争へと突き進む日本国内では経済が悪化、破産の憂き目に晒される。
道半ばで帰国した松方に代わって、
戦火が迫るフランスに単身残り、絵画の疎開を果たしたのは謎多き元軍人の日置だったが、
日本の敗戦とともにコレクションはフランス政府に接収されてしまう。
だが、講和に向けて多忙を極める首相・吉田茂の元に、
コレクション返還の可能性につながる一報が入り――。
(Amazonより)
「第161回直木賞にノミネート。
何より現在、東京国立西洋美術館では、“松方コレクション展” が絶賛開催中。
読むなら今しかねぇ!
ということで、思い立ったその日に本屋で購入しました。
そして、その翌日には、読了。
一気読みでした。
率直に、面白かったです。
松方幸次郎も、吉田茂も、戦時中に松方の部下だった日置釭三郎も、
日本を代表する美術史家の一人矢代幸雄をモデルにした田代雄一も。
4人の主要人物が、誰一人として欠点がない魅力的な男性として描かれていました。
“理想的な男子ばかりが登場するなんて、2.5次元ミュージカルじゃないんだから・・・(笑)”
と思わないでもなかったですが、それを差し引いても面白かったです。
それと、物語の舞台がほとんど海外。
“1年の半分をパリで過ごしている原田さんと違って、
こちとらパリを訪れたことなんてないから、ほとんどイメージ沸かないわ!”
とも思わないでもなかったですが、それも差し引いても面白かったです。
とにかく、松方幸次郎や吉田茂のエピソードや、
松方コレクションが辿った運命など、物語の随所に登場する実話が圧倒的に面白い。
誰が聞いても面白い、まさに日本美術史における ‘すべらない話’ 。
これらのエピソードを発掘してきた原田さんの取材力には、ただただ驚かされました。
それだけに、個人的な感想としては、
そういった面白いエピソードの数々を、もっとシンプルに、
ただ単純に時系列に沿う形で紹介して欲しかったような。
物語の形式は、なかなか複雑です。
ある登場人物のエピソードの途中で、回想シーンが挟まれ、
別の人物の物語が語られたと思ったら、またさらにそこから別の人物のエピソードに・・・。
ということが、わりと何度も起こります。
愚かものとしては、付いていくのがやっとでした。
ともあれ、この小説を読むと、松方コレクションが10倍、いや20倍は魅力的に感じます。
日本に国立西洋美術館があることが誇らしくなります。
反対に、あの手この手を使って、
頑なに松方コレクションを返そうとしなかったフランスの好感度はダウンするでしょう。
また、松方幸次郎のコレクターとしての器の大きさを知ってしまうと、
先日アートコレクションの一部を手放したあの社長の好感度もダウンするでしょう。
(☝これは、完全なる流れ弾)
(星4.5つ)」
~小説に登場する名画~
フィンセント・ファン・ゴッホ 《アルルの寝室》