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Channel: アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】
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傑作《女》を見る

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かねてより一度は訪れたいと思っていた碌山美術館。
日本近代彫刻の礎を築いた荻原守衛 (碌山) の作品と資料を永久に保存し、
一般に公開するために、1958年に碌山が生まれた安曇野の地に開館した美術館です。




碌山美術館といえば、中世の教会を思わせるこちらの建築。




この建物は、長野県下の小中学生を含む29万9100余人の寄付金で建てられたのだそう。
しかも、外観の煉瓦は、隣接する穂高中学校の生徒たちによって積み上げられたのだそうです。
日本にはさまざまな美術館がありますが、
このようにボランティアで作られた美術館というのは、他にちょっと思いつきません。
ちなみに、扉にはこんなレリーフが掲げられていました。


(注:館内の写真撮影は、特別に許可を得ております)


さてさて、こちらの建物内には、
フランス留学時代に作られた初期作 《杭夫》 や、


(↑碌山はこの作品を捨てるつもりだったが、友人の高村光太郎は絶賛し、日本に持ち帰るよう強く薦めたのだとか。光太郎グッジョブ!)


肖像彫刻の傑作と名高い重要文化財の 《北條虎吉像》




そして、碌山の代表作中の代表作 《女》 を含む、




14点が開館当時の配置のまま展示されています。




“・・・・・えっ、14点?少なっ!”

と思われた方も、いらっしゃるかもしれません。
もともとは、画家を目指して、海外に渡った碌山。
ところが、フランスでロダンの 《考える人》 に衝撃を受けて、画家から一転、彫刻家を目指します。
その後、ロダン本人からも指導を受けて、日本に帰国。
しかし、帰国してから2年ほどで、碌山は30歳という若さでこの世を去ってしまいます。
そう、そんな短い彫刻家人生であったため、
現存している彫刻作品は、わずか15点ほどしかないのです。
なお、館外に、残りの1点 《労働者》 が設置されています。




つまり、碌山美術館を訪れれば、
碌山の全彫刻作品をコンプリートできるのです。
そんな碌山の全彫刻作品の中で、個人的に一番印象に残ったのは、《デスペア》




デスペア。「絶望」 をテーマにした作品です。
完成にいたるまで、絶望的に時間がかかったといわれる碌山苦心の作。
碌山が叶わぬ恋心を抱いていた相馬黒光 (=新宿中村屋の創業者) が、
旦那の浮気に悲しみ、苦しんでいる姿をモチーフにしたという説もあるのだそうです。
なお、ポーズそのものは、黒光の次女が泣く際にするポーズを参考にしたのだとか。
・・・・・どんな泣き方だよ!
ちなみに、この作品を出展した当時、「卑猥すぎる!」 と物議を醸したのだそう。
いや、胸元も隠れてるし、そんなにエロくないような気がします。
どうやら、当時の人々にとっては・・・




このアングルからの眺めが卑猥に感じられたのだそうです。
そうでもないものをエロいと思える人の心がエロいんだなぁ(by とにを)。
碌山はそんな批判に対し、「だったら、その部分に紙でも貼っておけ!」 と笑い飛ばしたのだとか。
うーん。むしろ、そっちの方がエロくなるような。


さてさて、碌山の彫刻作品を観て終わり・・・かと思いきや。
他にもまだまだ観るべきものがありました。
先ほどから紹介している建物の正式名称は、碌山館。
「碌山館=碌山美術館」 とすっかり思い込んでいたのですが、
実は、碌山美術館の敷地内にある建物の一つにしか過ぎなかったのです。
敷地内には他にも、碌山の絵画作品を展示する杜江館 (もりえかん)




高村光太郎や柳敬助といった友人たちの作品や、
碌山から連なる近代彫刻の流れを汲む彫刻家の作品を紹介する第一展示棟、




休憩スペースとミュージアムショップを兼ねた、
地域の教員や学生たちのボランティアにより建てられたログハウス風のグズベリーハウスなど、




さまざまな建物が存在しています。
まさか、こんなにも見どころが多い美術館だったとは!
嬉しいサプライズでした。
星星


ちなみに。
定期的に特別展や企画展を開催する第二展示棟では、
碌山生誕140周年を記念して、“傑作《女》を見る” が開催されていました。




こちらでは、《女》 の石膏複製や、




その元となった貴重なスケッチなどが紹介されています。




苦悶の表情を浮かべた女性。
そのモデルも、《デスペア》 同様に、相馬黒光と言われています。
しかし、実際にモデルを務めたのは、岡田みどりなる女性だったそう。
なのに、何でモデルは相馬黒光とされてしまうのか。
会場には、岡田みどりと相馬黒光、そして、《女》 を写真で比較したパネルが展示されていました。
確かに、どちらかといえば、相馬黒光似。
むしろ、岡田みどりの面影はまったくありませんでした。
ポーズ取り損 (←?)。
自分と全く似てない完成品を目にしたとき、
きっと岡田みどりは、《女》 以上に、苦悶の表情を浮かべたことでしょう。




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