現在、ちひろ美術館・東京で開催されているのは、
“石内都展 都とちひろ ふたりの女の物語” という展覧会。
2014年に 『写真界のノーベル賞』 と言われるハッセルブラッド国際写真賞を、
アジア人女性として初めて受賞した国際的な写真家・石内都さんの最新個展です。
タイトルにある 「都とちひろ」 。
「ちひろ」 はもちろん、いわさきちひろのことですが、
「都」 とは、石内都さんを指しているのではありません。
藤倉都の 「都」 です。
(注:館内の写真撮影は、特別に許可を得ております。)
“藤倉都?誰?!”
と思われた方も多いことでしょう。
ご安心ください。それが正しい反応です。
藤倉都は、石内都さんの実のお母様。
言ってしまえば、名もなき人物です。
とは言え、さすが石内さんの母、ただものではありません。
両親の反対を押し切って、18歳で車の免許を取得。
当時まだまだ珍しかった女性ドライバーとして、
バスやタクシー、トラックなど自分よりも大きな車を乗りこなしていたそうです。
“・・・・・あれ?親子で同じ名前なの?!”
と思われた方も多いことでしょう。
ご安心ください。それも正しい反応です。
実は、石内都は、本名ではなく作家名。
28歳で写真を始めた時から、
母である藤倉都の旧姓 「石内都」 を名乗っているのだそうです。
さてさて、石内さん曰く、
いわさきちひろと母・藤倉都には、多くの共通点があるのだとか。
どちらも戦時中に旧満州に渡っていたこと。
お見合いが主流だった時代に、どちらも7歳年下の男性と恋愛し再婚したこと。
女性がまだ自由でなかった時代に、どちらも手に職を持って家族を支えていたこと。
それに加えて、年齢も2歳しか違わないのだそうです。
そんな通ずるところの多い ‘ふたり’ の人生を、
石内都というファインダーを通じて紹介しようというのが、今回の展覧会。
まず展示室1で紹介されていたのは、《1974. chihiro》 シリーズです。
こちらは、今回初公開となる新作のシリーズ。
被写体となっているのは、すべていわさきちひろの遺品です。
なお、これらの撮影は、冬期休館中に、
安曇野ちひろ美術館の館内で、それも自然光のみで行われたとのこと。
画面から感じる独特のぬくもり、温かさは、
太陽の光を浴びたゆえのものなのかもしれませんね。
続く展示室2で紹介されていたのは、石内さんの出世作ともいうべき記念的な作品で、
ヴェネチア・ビエンナーレ日本館代表に選出されるきっかけとなった 《Mother’s》 シリーズです。
こちらのシリーズの被写体は、Mother、つまり、石内さんの母である藤倉都。
彼女の身体を接写した作品や彼女の遺品を撮影した作品で構成されています。
基本的にモノクロであるため、死をよりダイレクトに連想させるものがありました。
“展示室1と、重力が違わない?”
そう疑ってしまうほどに、展示室2は重たい空気が漂っていました。
展示室3では、いよいよちひろ作品が登場します。
・・・・・といっても。
彼女のパブリックイメージともいうべき、
“やさしい色彩でかわいらしい絵” の作品は1点もありません。
壁一面に飾られていたのは、ちひろの素描。
どの素描も線が力強く、硬派な印象がありました。
いい意味で、ちひろのイメージが変わります。
展覧会のラスト、展示室4では、
2人の生前の写真や資料などが併せて展示されていました。
2人に直接の接点は無いそうなのですが、
まるで示し合わせたかのように、似たような空気感を出していました。
そう遠くない未来に、このような展覧会が開催されることを2人は知っていたのかも。
そして、この展覧会を通じて、2人はようやく出会うことに。
もちろん、そんなわけないのですが。
そう想像せずにはいられない不思議な縁を感じる展覧会でした。
ちなみに。
展覧会で一番印象に残っているのは、83歳頃の藤倉都の運転免許証です。
普通免許ではなく、大型二種免許。
思わず二度見してしまいました。
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