東京都美術館で開催中の話題の展覧会、
“ハマスホイとデンマーク絵画” に行ってきました。
(注:館内の写真撮影は、特別に許可を得ております。)
2008年に国立西洋美術館にて初個展が開催され、
美術ファンに大きな衝撃を与えたデンマークの画家ヴィルヘルム・ハマスホイ (1864~1916)。
その日本での12年ぶりとなる大々的な展覧会です。
展覧会の冒頭にこそ、若き日の彼と妻との2ショット作品が展示されていましたが。
ヴィルヘルム・ハマスホイ 《画家と妻の肖像、パリ》 1892年 デーヴィズ・コレクション蔵 The David Collection, Copenhagen
そこからしばらくは、ハマスホイはお休み。
ハマスホイ展以外のデンマークの画家たちのターンが続きます。
どこかオランダ絵画を彷彿とさせる “デンマーク絵画の黄金期” と呼ばれる時代の絵画から、
デンマーク最北端の漁村・スケーインに移り住んで、
芸術村を形成した、いわゆるスケーイン派の画家たちの絵画、
さらに、ハマスホイと同時代に活躍した19世紀のデンマークの画家たちの絵画など、
デンマーク絵画の名品の数々が一堂に会していました。
日本で本格的にデンマーク絵画が紹介される初めての機会です。
クレステン・クプゲにコスタンティーン・ハンスンにクレスティアン・クローグに。
その作家名は耳馴染みないものばかりだったのですが、
どの絵も、不思議と前から見知っていたかのような安堵感、心地よさを覚えました。
さすが、“ヒュゲ(hygge:くつろいだ、心地よい雰囲気)” を大切にする国デンマーク。
絵画の中にも、“ヒュゲ” の精神が宿っているようでした。
どの作品も目にも心地よいものでしたが、
中でも印象的だったのは、ヴィゴ・ヨハンスンの 《きよしこの夜》 です。
ヴィゴ・ヨハンスン 《きよしこの夜》 1891年 ヒアシュプロング・コレクション蔵 © The Hirschsprung Collection
まるで、コカコーラのCMの一場面のような、
これ以上無いくらいに、幸せなクリスマスの光景が描かれています。
まさに、“ヒュゲ” な一枚。
しかし、よく見ると、ツリーに飾られているのは、電飾ではなく蝋燭なのですね。
ツリーに火が燃え移らないか、やや心配になってきました。
また、もう一枚、特に印象に残っているのが、
ユーリウス・ポウルスンの 《夕暮れ》 という作品です。
こちらの画像、撮影の際に手ブレしたわけではありません。
《夕暮れ》 という作品自体が、このようにピンボケしたような表現で描かれているのです。
ありそうでなかった絵画表現。
もっと彼の作品を観てみたくなりました。
・・・・・と、デンマーク絵画の魅力にハマってしまい、
肝心の主役のことを、すっかり忘れてしまった頃、目の前に突如として扉が現れました。
そう。ここから先が、ハマスホイのパート。
約40点のハマスホイ作品が、僕らを待ち受けていました。
室内画をとりわけ多く描いたことから、
「北欧のフェルメール」 とも称されるハマスホイ。
今展でも、多数の室内画が展示されています。
もちろん、ハマスホイ以外のデンマークの画家も、室内画は描いています。
ピーダ・イルステズ 《ピアノに向かう少女》 1897年 アロス・オーフース美術館蔵
ARoS Aarhus Kunstmuseum / © Photo: Ole Hein Pedersen
しかし、見比べてみることで、
彼らの穏やかな室内画とは、ハマスホイの室内画の特殊さが浮き彫りになります。
ヴィルヘルム・ハマスホイ 《ピアノを弾く妻イーダのいる室内》 1910年 国立西洋美術館蔵 (注:東京展のみ出品)
ハマスホイの室内が、そこに ”ヒュゲ” は感じられません (注:個人の感想です)。
温かみというよりも、寒々しさ、もっと言えば、サスペンス感すら漂っていました。
テーブルの上の灰皿が、凶器にしか見えません。
きっとあの灰皿で何も気づかずピアノを弾いている妻の後頭部を・・・ (注:あくまで個人の感想です)。
そんなハマスホイの独特な不穏感は、
室内画以外でもいかんなく発揮されていました。
例えば、後ろ姿で描かれることの多い妻イーダを真っ正面から描いた肖像画。
顔色の悪さがハンパではありません。
土気色を通り越して、緑色になっています。
よく見れば、手も緑色。
これではイーダではなく、ヨーダです。
また例えば、ブナの森を描いた一枚。
ヴィルヘルム・ハマスホイ 《若いブナの森、フレズレクスヴェアク》 1904年 デーヴィズ・コレクション蔵 The David Collection, Copenhagen
何の変哲も無い森のはずなのですが。
絵の画面全体に漂う空気感のせいなのでしょうか。
はたまた、ローアングルで描かれているからなのでしょうか。
なんともいえない不穏な感じが漂っています。
観れば観るほど、何かの犯行現場にしか思えなくなってきました。
耳を澄ませば、シャベルで土を掘る音が聞こえてくるようです。
ハマスホイが描く作品はどれも、
心をゾワゾワザワザワさせるものがあります。
心地よいか心地よくないかでいえば、後者ですが、
そのミステリアスさが、じわじわとクセになってくるのです。
観れば観るほど、その独特な世界観にハマり、
家に帰ってからもなお、そのジワジワは継続。
現時点で、もうすでに展覧会に行きたくて仕方なくなっています。
完全なるハマスホイ中毒。
確実に、これまでにない鑑賞体験が出来る展覧会です。
ちなみに、数あるハマスホイ作品の中で、
是非注目して頂きたいのが、《背を向けた若い女性のいる室内》 という一枚です。
こちらの作品に描かれているパンチボウルは、
ハマスホイの子孫に受け継がれ、今なお大切にされているとのこと。
そして、その実物がなんと来日しているのです。
さて、その蓋の部分に、ご注目。
一度壊れたため、鎹で止められているそうです。
なお、その修理の際に少し歪みが生じたため、
蓋と胴の間に微妙に隙間が空いているのも見て取れます。
実は、《背を向けた若い女性のいる室内》 に描かれているパンチボウルにも同じ隙間が!
どうやら、ハマスホイは壊れた部分も忠実に描いていたようです。
会場で是非、見比べてみてくださいませ。
さてさて、展覧会の最後には、
《室内—陽光習作、ストランゲーゼ30番地》 をモチーフにした撮影スポットがあります。
この絵の前で写真撮影する時に、一つご注意を。
一見すると、普通の室内画のようですが、
注意深く見てみると、扉にドアノブがありません。
アナタはすでにこの室内に閉じ込められているのかも。
もしかしたら、知らない間に奇妙な扉を開けてしまっていたのかもしれません。
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“ハマスホイとデンマーク絵画” に行ってきました。
(注:館内の写真撮影は、特別に許可を得ております。)
2008年に国立西洋美術館にて初個展が開催され、
美術ファンに大きな衝撃を与えたデンマークの画家ヴィルヘルム・ハマスホイ (1864~1916)。
その日本での12年ぶりとなる大々的な展覧会です。
展覧会の冒頭にこそ、若き日の彼と妻との2ショット作品が展示されていましたが。
ヴィルヘルム・ハマスホイ 《画家と妻の肖像、パリ》 1892年 デーヴィズ・コレクション蔵 The David Collection, Copenhagen
そこからしばらくは、ハマスホイはお休み。
ハマスホイ展以外のデンマークの画家たちのターンが続きます。
どこかオランダ絵画を彷彿とさせる “デンマーク絵画の黄金期” と呼ばれる時代の絵画から、
デンマーク最北端の漁村・スケーインに移り住んで、
芸術村を形成した、いわゆるスケーイン派の画家たちの絵画、
さらに、ハマスホイと同時代に活躍した19世紀のデンマークの画家たちの絵画など、
デンマーク絵画の名品の数々が一堂に会していました。
日本で本格的にデンマーク絵画が紹介される初めての機会です。
クレステン・クプゲにコスタンティーン・ハンスンにクレスティアン・クローグに。
その作家名は耳馴染みないものばかりだったのですが、
どの絵も、不思議と前から見知っていたかのような安堵感、心地よさを覚えました。
さすが、“ヒュゲ(hygge:くつろいだ、心地よい雰囲気)” を大切にする国デンマーク。
絵画の中にも、“ヒュゲ” の精神が宿っているようでした。
どの作品も目にも心地よいものでしたが、
中でも印象的だったのは、ヴィゴ・ヨハンスンの 《きよしこの夜》 です。
ヴィゴ・ヨハンスン 《きよしこの夜》 1891年 ヒアシュプロング・コレクション蔵 © The Hirschsprung Collection
まるで、コカコーラのCMの一場面のような、
これ以上無いくらいに、幸せなクリスマスの光景が描かれています。
まさに、“ヒュゲ” な一枚。
しかし、よく見ると、ツリーに飾られているのは、電飾ではなく蝋燭なのですね。
ツリーに火が燃え移らないか、やや心配になってきました。
また、もう一枚、特に印象に残っているのが、
ユーリウス・ポウルスンの 《夕暮れ》 という作品です。
こちらの画像、撮影の際に手ブレしたわけではありません。
《夕暮れ》 という作品自体が、このようにピンボケしたような表現で描かれているのです。
ありそうでなかった絵画表現。
もっと彼の作品を観てみたくなりました。
・・・・・と、デンマーク絵画の魅力にハマってしまい、
肝心の主役のことを、すっかり忘れてしまった頃、目の前に突如として扉が現れました。
そう。ここから先が、ハマスホイのパート。
約40点のハマスホイ作品が、僕らを待ち受けていました。
室内画をとりわけ多く描いたことから、
「北欧のフェルメール」 とも称されるハマスホイ。
今展でも、多数の室内画が展示されています。
もちろん、ハマスホイ以外のデンマークの画家も、室内画は描いています。
ピーダ・イルステズ 《ピアノに向かう少女》 1897年 アロス・オーフース美術館蔵
ARoS Aarhus Kunstmuseum / © Photo: Ole Hein Pedersen
しかし、見比べてみることで、
彼らの穏やかな室内画とは、ハマスホイの室内画の特殊さが浮き彫りになります。
ヴィルヘルム・ハマスホイ 《ピアノを弾く妻イーダのいる室内》 1910年 国立西洋美術館蔵 (注:東京展のみ出品)
ハマスホイの室内が、そこに ”ヒュゲ” は感じられません (注:個人の感想です)。
温かみというよりも、寒々しさ、もっと言えば、サスペンス感すら漂っていました。
テーブルの上の灰皿が、凶器にしか見えません。
きっとあの灰皿で何も気づかずピアノを弾いている妻の後頭部を・・・ (注:あくまで個人の感想です)。
そんなハマスホイの独特な不穏感は、
室内画以外でもいかんなく発揮されていました。
例えば、後ろ姿で描かれることの多い妻イーダを真っ正面から描いた肖像画。
顔色の悪さがハンパではありません。
土気色を通り越して、緑色になっています。
よく見れば、手も緑色。
これではイーダではなく、ヨーダです。
また例えば、ブナの森を描いた一枚。
ヴィルヘルム・ハマスホイ 《若いブナの森、フレズレクスヴェアク》 1904年 デーヴィズ・コレクション蔵 The David Collection, Copenhagen
何の変哲も無い森のはずなのですが。
絵の画面全体に漂う空気感のせいなのでしょうか。
はたまた、ローアングルで描かれているからなのでしょうか。
なんともいえない不穏な感じが漂っています。
観れば観るほど、何かの犯行現場にしか思えなくなってきました。
耳を澄ませば、シャベルで土を掘る音が聞こえてくるようです。
ハマスホイが描く作品はどれも、
心をゾワゾワザワザワさせるものがあります。
心地よいか心地よくないかでいえば、後者ですが、
そのミステリアスさが、じわじわとクセになってくるのです。
観れば観るほど、その独特な世界観にハマり、
家に帰ってからもなお、そのジワジワは継続。
現時点で、もうすでに展覧会に行きたくて仕方なくなっています。
完全なるハマスホイ中毒。
確実に、これまでにない鑑賞体験が出来る展覧会です。
ちなみに、数あるハマスホイ作品の中で、
是非注目して頂きたいのが、《背を向けた若い女性のいる室内》 という一枚です。
こちらの作品に描かれているパンチボウルは、
ハマスホイの子孫に受け継がれ、今なお大切にされているとのこと。
そして、その実物がなんと来日しているのです。
さて、その蓋の部分に、ご注目。
一度壊れたため、鎹で止められているそうです。
なお、その修理の際に少し歪みが生じたため、
蓋と胴の間に微妙に隙間が空いているのも見て取れます。
実は、《背を向けた若い女性のいる室内》 に描かれているパンチボウルにも同じ隙間が!
どうやら、ハマスホイは壊れた部分も忠実に描いていたようです。
会場で是非、見比べてみてくださいませ。
さてさて、展覧会の最後には、
《室内—陽光習作、ストランゲーゼ30番地》 をモチーフにした撮影スポットがあります。
この絵の前で写真撮影する時に、一つご注意を。
一見すると、普通の室内画のようですが、
注意深く見てみると、扉にドアノブがありません。
アナタはすでにこの室内に閉じ込められているのかも。
もしかしたら、知らない間に奇妙な扉を開けてしまっていたのかもしれません。
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