渋谷PARCOの真向かいにある渋谷区立勤労福祉会館。
その一階部分に、今年2月、
東京都渋谷公園通りギャラリーがオープンしました。
元々この場所には、トーキョーワンダーサイトという、
若手アーティストの育成支援や作品展示を行うアート施設がありましたが。
小池百合子・現東京都知事の主導により、
アール・ブリュットの作品展示や普及に力を入れるギャラリーへと方針変更されました。
ちなみに、アール・ブリュット (Art Brut) とは、
元々、フランスの芸術家ジャン・デュビュッフェによって提唱された概念。
提唱された当時は、幼児や精神病患者、囚人あるいは完全な素人などが、
誰に見せるわけでもなく、自分のために制作していた作品を指していましたが。
現在では、広く、専門的な美術の教育を受けていない人によるアートと定義されています。
これはあくまで個人的な意見なのですが。
アール・ブリュットは最近日本でも注目されていますし、
福島県のはじまりの美術館や広島県の鞆の津ミュージアムをはじめ、
アール・ブリュットを専門にする私立美術館が開館するのは、とても意義があることだと思っています。
公立の美術館でも、アール・ブリュットの作家を紹介したり、
アール・ブリュットに焦点を当てた展覧会が開催されるのも、とても意義があることだと思っています。
ただ、都立の施設で、アール・ブリュット専門ってどうなのでしょう・・・・・。
藝大や美大で真面目に美術教育を受けた人が、ないがしろにされているような。
逆差別のような気がしてしまうんですよね。
そんなモヤモヤした気持ちを抱えたまま、
現在開催中の展覧会、“フィールド⇔ワーク展 日々のアトリエに生きている” を観ましたが・・・・・・
普通に楽しめました。
アール・ブリュットであろうがなかろうが。
専門的な美術教育を受けていようがいなかろうが。
イイものはイイ。ただそれだけです。
こちらは、独自の手法で創作を続けている5名の作家を紹介する展覧会。
彼らの作品、つまり 「ワーク」 と、
その作家の生活や創作の現場、つまり 「フィールド」 を映した写真を併せて紹介する展覧会です。
ちなみに、会場にある写真をすべて撮影したのは、
Mr.Childrenのジャケットや窪田正孝のフォトブックなども手がける人気写真家・齋藤陽道さん。
齋藤陽道さんは、「ろう者の写真家」 として紹介されることもありますが。
“ろう者だから”、“ろう者なのに” というのは関係なく、
被写体の生き様や性格を優しい目線で捉えた素敵な写真を撮る人物です。
そんな齋藤さんの撮り下ろし写真が観れるだけでも、この展覧会を甲斐がありました (しかも無料)。
今回紹介されていた作家の中で、
特に作品に心を惹かれたのが、蛇目 (へびめ) さん。
一見すると、よくある抽象画のような印象を受けますが。
キャンバスの表面が少々・・・・・いや、だいぶボコボコしています。
どのように制作された作品なのでしょう??
その答えは、齋藤さんが撮影した写真の中にありました。
アクリル絵の具を何層にも塗り重ねて、
それが固まったのちに、彫刻刀で削り出していたのですね。
漆を塗り重ねたあとに削る堆朱のアクリル絵の具ver.といったところでしょうか。
他の何とも被っていない質感。
そして、他の何とも被ってないカラーセンス。
パッと見は、グチャグチャのようにも感じるのですが、
観れば観るほど、この削り方が唯一の絶対解であるような。
不思議な説得力がありました。
どの作品も良かったですが。
個人的には、きゃりーぱみゅぱみゅ感のあるこちらの作品がお気に入りです。
それから、もう一つ、特に印象に残っているのが、こちらの作品群。
ロシアン・アヴァンギャルドを彷彿とさせるこれらの作品は、
澤田隆司さんと福祉事業所・片山工房の理事長である新川修平さんの協同により制作されたもの。
澤田さんが自由にコントロールできた身体のわずかな動き。
それは、右足首のスナップだったそうです。
澤田さんが色を選び、その絵の具が入った容器をキャンバスの上で蹴ります。
すると、当然絵の具は流れ出します。
その向きや角度、加減を、澤田さんは声と身振りで新川さんに指示。
それを繰り返して完成したのが、これらの作品なのだそうです。
「ペンキの入った容器を蹴って、キャンバスを動かしてるだけじゃん。」
・・・・・・と言ってしまえば、それまでなのですが。
澤田さんの作品も、蛇目さんの作品と同じく、
色、形、角度など、これしかあり得ないという不思議な説得力がありました。
最後に、余談ですが。
東京都渋谷公園通りギャラリーのロゴは、
『人』 と 『!』 をモチーフに、多様性の中で発見する驚きや気づきを表しているのだそう。
また、あみだくじのようなシルエットにすることで、
偶然の出会いや自分では想像もできない世界に巡り会えること、
道 (選択肢) を抜けた先に発見があることを表現しているのだそうです。
そんな想いを込めたロゴが、渋谷区立松濤美術館のロゴと妙に似ていました。
ともに渋谷駅徒歩圏内にあるアート施設。
紛らわしいこと、この上ありません。