現在、太田記念美術館では、
“江戸の土木” という展覧会が開催中です。
江戸と土木 (工事)。
意外な組み合わせのような印象があるかもしれません。
単なる地方都市の一つにしか過ぎなかった江戸は、
徳川家康が幕府を開いてから約100年で、人口100万人を超える世界的な大都市になりました。
その急成長の立役者となったのが、上水道の整備や埋め立て地といった土木工事だったのです。
浮世絵を交えながら、そんな江戸の土木工事の数々を紹介するのが今回の展覧会。
浮世絵ファンはもちろん、土木ファンも楽しめる展覧会です。
まず展覧会で紹介されていたのは、
土木ファン曰く “土木の花形” とされる橋。
歌川広重も描いた新大橋や、
歌川広重 《名所江戸百景 大はしあたけの夕立》 安政4年(1857)9月
かつては武蔵国と下総国を結ぶ国境の役目を果たしていた両国橋をはじめ、
歌川広重 《東都名所 両国橋夕凉全図》 天保(1830~44)後期頃
今でも現役の東京の橋の数々が紹介されています。
当たり前といえば、当たり前ですが、
江戸時代の橋は、基本的に木造でした。
では、明治時代になり、すぐに鉄橋になったのかと言えば、意外とそうでもなかったのだそう。
こちらは、明治8年に架け替えられた両国橋を描いた浮世絵です。
小林清親 《東京五大橋之一 両国真景》 明治9年(1876)1月
オランダ人技師によって作られた西洋式の橋ではあるものの、木造でした。
ちなみに、都内で早い段階で鉄橋が架けられたのは、新橋だったとのこと。
三代歌川広重 《東京横浜名所一覧図会 東京新はし鉄道》 明治4年(1871)頃
残念ながら、現在この橋は残っていないようです。
そもそも、この水路自体も残っていません。
場所でいうと、銀座博品館のあたりなのだとか。
ビックリするほど面影がありませんね。
と、話を戻しまして。
木造だった江戸の橋は、大勢の人の重さに耐えきれず崩落したり、
増水などの自然災害により流されてしまうことも、多々あったそうです。
隅田川で最も古い橋として、1594年に架けられて以来、
一度も壊れたことがなかった千住大橋も、明治18年の台風による洪水でついに崩落してしまいます。
二代歌川国明 《千住大橋吾妻橋 洪水落橋之図》 明治18年(1885)
そして、そのまま下流に流されていき、吾妻橋を直撃!
吾妻橋も崩落してしまいました。
さらに、今度はその壊れた吾妻橋が厩橋へ。
まるで玉突き事故のようです。
しかし、この時は川岸から多くの人が、
壊れた吾妻橋を引っ張り、厩橋の崩落は回避されたようです。
そんな緊迫の場面を描いたこちらの浮世絵。
その一部をよく見てみると・・・・・
壊れた吾妻橋だけでなく、千住大橋の上にも人がいました。
もしや、この人は千住大橋から流されてきたのでしょうか?
しかも、シルエット的にはサーフィンのポーズ。
むしろこの状況を楽しんでいるのでしょうか!?
ちなみに。
展覧会では、こんな変わり種の橋も紹介されていました。
葛飾北斎 《諸国名橋奇覧 かめいど天神たいこばし》 天保4~5年(1833~34)頃
現在の亀戸天神にも太鼓橋はありますが、これほどまでに急ではありません。
さては北斎、盛りましたね(笑)
・・・・・・・と思ったら。
かつて亀戸天神にあった太鼓橋の古写真も紹介されていました。
本当にあったんかい!急すぎるわ!!
思わず声を出してツッコミそうになりました。
太鼓橋の頂上にいる皆さんが、このあとどうやって降りたのか。
非常に気になるところです。
さてさて、展覧会では橋以外にも、
行徳から塩を運ぶために整備された小名木川をはじめとする江戸の水路や、
歌川広重 《名所江戸百景 小奈木川五本まつ》 安政3年(1856)7月
食料を確保する農地として整備された深川をはじめとする江戸の埋め立て地などを紹介。
歌川広重 《名所江戸百景 深川洲崎十万坪》 安政4年(1857)閏5月
展覧会のラストでは、江戸の再開発エリアの数々が紹介されていました。
そのうちの一つが、現在の人形町の近くにあった二丁町。
歌川広重 《東都名所 二丁町芝居繁栄之図》 天保(1830~44)後期頃
もともと芝居小屋は江戸の各地に点在していたようですが、
明暦の大火をきっかけに、一か所に集められたのだそうです。
上の浮世絵に描かれているのは、すべて芝居小屋。
江戸時代には、日本にもブロードウェイのような街があったのですね。
また、江戸時代にはこんなエリアもあったのだそう。
歌川豊春 《浮絵和国景夕中洲新地納涼之図》 安永(1772~81)前期頃
その名は、中洲新地。
隅田川にかつてあった幻の繁華街です。
その賑わいは、両国や浅草を凌ぐほど。
しかし、あまりにも賑わいすぎたため、
寛政の改革により、元の浅瀬に戻されたのだそうです。
地図上から消えた街。
江戸の杉沢村です (←?)。