■画鬼と娘 明治絵師素描
作者:池 寒魚
出版社:集英社
発売日:2020/9/18
ページ数:320ページ
日本のアートシーンが大きく変化した明治期に活動した三組の画家の親子の物語。
巨匠河鍋暁斎とその画業を継いだ娘、暁翠の矜持 (画鬼と娘)。
早熟の天才、五姓田義松の苦悩と見守る父芳柳。
洋画の技術と画材の研究に尽力した高橋由一と息子の源吉。
世の中や市場の変化に翻弄されながら、
彼らが貫いた画業と、達した境地に迫らんとする歴史連作小説。
(「BOOK」 データベースより)
「物語は、“画鬼” こと河鍋暁斎がこの世を去ったところからスタート。
その知らせを聞きつけて、河鍋家に五姓田義松がやってきます。
さらに、暁斎の弟子であるコンデル (※) をはじめ、さまざまな人物が続々と河鍋家に。
(※現在はジョサイア・コンドルと表記されるのが一般的ですが、
暁斎がイギリス風に 「コンデル」 と呼んでいたとのことで、この本では 「コンデル」 表記で統一されています)
全4話からなる連作短編の第一話は、
そんな慌ただしい一日の様子を、暁斎の娘である暁翠の視点で描いています。
特に興味深かったのは、岡倉天心とフェノロサが弔問に訪れるシーン。
なぜ、彼らが河鍋家を訪れたのか。
その意外な理由に、明治期の美術界の闇を見た気がしました。
そう、この小説では、岡倉天心とフェノロサは、終始悪者として描かれています。
彼らは日本の古美術の魅力を再発見した、
いわば、日本美術界のヒーロー的なポジションで紹介されることが多いですが。
フェノロサに狩野派と認められていなかった暁斎や、
明治期の洋画家たちからすれば、確かに2人は敵役。
立場によって、人物像が異なって見えるのは、単純に興味深かったです。
さて、続く第二話では、主人公は五姓田義松に。
第三話では高橋由一が、第四話では由一の息子である高橋源吉が主人公となります。
主人公は変わりますが、物語は緩やかに繋がっています。
小説の真の主役は、明治期の洋画といったところでしょうか。
日本にどうやって洋画が根付いたのか。
そして、フェノロサや天心によって生まれた日本画によって、
一度は隅に追いやられた洋画が、いかにして再び命を吹き返したのか。
そのあたりが丁寧に描かれています。
知ってるようで知らない洋画。
この小説を読むと、確実に明治期の洋画を見る目が変わります。
知ってるようで知らないといえば、画家の意外な交流関係も。
河鍋暁斎と、北海道の名付け親として知られる探検家の松浦武四郎。
五姓田義松とアンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック。
高橋由一と、岸田劉生の父である岸田吟香。
それぞれどんな関係があったのか。
知られざるエピソードが続々登場するため、思わず一気読みしてしまいました。
ちなみに、他にも、黒田清輝や山本芳翠、ワーグマン、
ヘボン式のローマ字の考案者ヘボンや、初の本格的政党内閣を結成した原敬など、
歴史に名を残す有名人も、続々登場。
大河ドラマのような豪華メンバーです。
基本的には、史実がもとになっているようですが。
もちろん小説なので、創作らしきシーンもちらほら。
高橋由一が 《鮭》 を描くきっかけとなったエピソードも登場しましたが、さすがにそれは・・・w
高橋由一が、そんなジャッキーチェンみたいな動きをするかなぁ??
(星3つ)」
~小説に登場する名画~
河鍋暁翠 《能・石橋》