現在、目黒区美術館で開催されているのは、
“前田利為 春雨に真珠をみた人” という展覧会です。
今展の主役である前田利為 (としなり) は、
明治18年生まれの華族にて、陸軍の軍人。
旧加賀藩主・前田家の第16代当主に当たる人物です。
ちなみに、タイトルにある “春雨に真珠をみた人” とは、
雨粒をまとった蜘蛛の巣を撮影した写真が収められたアルバムの台紙に、
利為が 『綾真珠』 と記したことに由来するのだとか。
公式HPには、「その繊細な感性と美意識に着目し」 とありましたが。
さまざまな功績を残した前田利為の人生の中から、
あえてこのニッチな部分に着目した目黒区美術館もまた、
繊細な感性と美意識の持ち主と言えましょう。
と、それはさておき。
岡倉天心に美術を学んだこともあり、
利為の美術を見る眼は、かなりのものだったそう。
第4回二科展を鑑賞した際には、
「会の主義と称す作品いずれも醜悪、是れ美術かと疑わしむ」 と、
なかなかの辛口コメントを残しているようです。
さてさて、今展で紹介されているのは、
そんな前田利為が自ら収集した美術作品の数々。
それも、実際に前田家の邸宅を飾っていた美術作品の数々です。
例えば、こちらのフランソワ・ポンポンの 《シロクマ》。
フランソワ・ポンポン 《シロクマ》 1930年 公益財団法人前田育英会蔵
国内のでは、群馬県立館林美術館が所蔵するものが有名ですが。
実は、前田利為も所蔵していたそうで、
なんと公開されるのは、今展が初めてとのこと。
しかも、この 《シロクマ》 は、前田利為自身が、
ポンポンのアトリエを訪れ、直接注文したものなのだそうです。
(ちなみに、群馬県立館林美術館が所蔵しているものは、ポンポンの死後に購入されたものです)
また例えば、こちらのラファエル・コランの 《庭の隅》 という作品。
ルイ=ジョゼフ=ラファエル・コラン 《庭の隅》 1895年 公益財団法人前田育英会蔵
明治43年に、明治天皇が前田家への臨幸される際に、
利為は、その準備として、邸宅を美術作品で飾ろうと考え、
パリで活躍した美術商・林忠正旧蔵の絵画の購入を決めたのだそう。
コランの 《庭の隅》 は、そのうちの1枚です。
さすがは前田家。
おもてなしがレベチです。
なお。
明治天皇が臨幸されるというのは、
よっぽど重要な出来事だったようで。
下村観山 《臨幸画巻》(部分) 1931(昭和6)年 公益財団法人前田育英会蔵
利為は、その様子を下村観山に画巻の形で描かせています。
今展では、「麟の巻」「鳳の巻」「亀の巻」「龍の巻」 の4巻すべてが展示されていました。
庶民では絶対に経験できない臨幸。
その様子を覗き見 (?) できる貴重な機会です。
また、貴重といえば、こんな作品も。
牛田雞村 《鎌倉の一日》 1917(大正6)年 公益財団法人前田育英会蔵
速水御舟や小茂田青樹らと赤曜会を結成した、
日本画家・牛田雞村の 《鎌倉の一日》 という作品です。
利為は、再興第4回日本美術院展でこの作品を観て、
えらく気に入り、牛田のパトロンだった実業家・原三溪から購入したのだとか。
その後、公開されたことがなく、長らく幻の作品とされてきたのだそうです。
本展では、ほぼ100年ぶりに全体公開されています。
お見逃しなく!
さてさて、展覧会では他にも、
印象派を代表するルノワールの 《アネモネ》 や、
ピエール=オーギュスト・ルノワール 《アネモネ》 公益財団法人前田育英会蔵
明治から昭和にかけて活躍した洋画家・小杉放菴による 《銀鶏》 など、
小杉放菴 《銀鶏》 1940(昭和15)年以前 公益財団法人前田育英会蔵
これまでほぼ公開されていなかった美術作品が数多く紹介されています。
西洋美術あり。日本美術あり。
さらには、目黒区駒場の地に現存する旧前田家本邸の図面もあり。
意外とストライクゾーンの広い展覧会でした。
会期が短めなので、気になった方は是非お早めに。
ちなみに。
個人的に一番気になったのは、チラシにも掲載されている、
グザヴィエ・ブリカールなるフランスの画家の 《少女海水浴図》 です。
約100年前に描かれた絵とは思えない、
今風の顔立ちが、強く印象に残りました。
二階堂ふみ似。
┃会期:2021年2月13日~3月21日
┃会場:目黒区美術館
┃https://mmat.jp/exhibition/archive/2021/20210213-173.html