2019年に、東京ステーションギャラリーにて、
フィンランドを代表する建築家アルヴァ・アアルトの大規模な回顧展が開催されましたが。
現在、世田谷美術館では、アルヴァ・アアルトと、
その妻であるアイノ・アアルトにもスポットを当てた展覧会が開催されています。
その名も、“アイノとアルヴァ 二人のアアルト フィンランド―建築・デザインの神話”。
“アルヴァとアイノ” ではなく、“アイノとアルヴァ”。
そのことからもなんとなくわかるように、
どちらかといえば、アイノ寄りの展覧会といえましょう。
さてさて、展覧会ではもちろん、
アアル夫妻の代表作である 「パイミオのサナトリウム」 や、
(注:展示室内の写真撮影は一部可能。この記事に使われている写真は特別に許可を得て撮影したものです。)
「ヴィープリの図書館」 といった公共建築も紹介されていました。
しかし、それ以上に個人的に印象に残っているのが、
1930年にアアルト夫妻が企画したという 『最小限住宅展』 です。
この当時、4、5人の家族が住むアパートは、
約250㎡の広さが一般的とされていたそうですが。
アアルト夫妻は、その3分の1以下、
70㎡ほどまでコンパクトに押さえたのだとか。
もちろん、家具もすべてアアルト夫妻が設計したもの。
シンプルかつ大量生産も可能なのだそう。
ここだけ見たら、完全にIKEAでした。
もしくは、ニトリ。
今から90年前の光景とは、とても思えません。
それくらいに現代的です。
なお、こちらのシンプルな部屋は・・・・・
1929年から30年代前半にかけて、
アイノが自身の子供のためにデザインした部屋を再現したもの。
ちなみに、展示されている家具は、
実際にアアルト夫妻の自宅で使用されていたものだそうです。
子ども部屋にあったにも関わらず、
シールが貼られた形跡は一切ありませんでした。
シンプルを究めた夫妻の子どもは、
生まれながらにしてミニマリストなのかもしれませんね。
さて、印象的だったといえば、こちらのスツール60も。
あまりにもシンプルすぎて、
説明が無かったら、素通りしてしまうところでしたが。
実は、画期的な技術が使われているスツールなのだそう。
ある時、マルセル・ブロイヤーの名作椅子ワシリー・チェアを目にしたアルヴァ。
スチールが曲げられるなら、同じように木も曲げられないかと思い付きました。
そこで、木材のエキスパートとして知られたオット・コルホネンとともに、長年かけて、
安価なバーチ材 (白樺) の薄い板を何層も重ね、加圧することで直角に曲げる技法を開発。
その画期的な技法は、「L - レッグ」 と命名され、
スツール60以外にも、多くの家具に取り入れられました。
座面や天板に、足をビスで取り付けるだけで完成。
それゆえ、パーツをバラした状態で販売することができます。
まんま現在のIKEAやニトリで採用されてるシステムでした。
こういう画期的なアイディアを次から次に生み出すなんて。
天才にもほどがある夫婦です。
そんなアアルト夫妻の天才ぶりが、最大限に発揮されていたのが、
ニューヨークの万国博覧会で設計したフィンランド館のパビリオンに関するエピソード。
当初、コンペに興味を持っていなかったというアアルト夫妻。
しかし、気が変わったのか、締切りの3日前に図面に取り組み始めたそう。
アルヴァは2案、アイノは1案を提出しました。
すると、アルヴァの2案が1等と2等を、アイノの案が3等を獲得。
1等から3等をアアルト夫妻が独占したそうです。
この夫婦が天才すぎるのか。
はたまた、フィンランドにろくな建築家がいなかったのか (おそらく前者)。
会場ではその後、2人で設計することとなった、
波打つ壁が特徴なパビリオンの模型が紹介されていました。
さらに、展覧会では、そのパビリオンを実寸サイズで再現したものも!
作り込みがスゴすぎて、会場の冒頭から、
その本気ぶりが伝わってくる展覧会でしたが。
会場ラストのこの再現展示で、さらに度肝を抜かれました。
4月にして早くも、「この展覧会がすごい!2021」 候補です。
建築が好きな人にも、インテリアが好きな人にもオススメ!
なお、アアルト夫妻の世界にどっぷりハマったせいでしょうか。
展覧会を見終えたあたりでは、
なんだか世田谷美術館の建物や砧公園までもが、
フィンランドっぽく感じられるようになっていました。
夕方17時でもこの明るさだったので、白夜なのかと思ってしまったほど。