先日の記事でもお伝えしましたが。
静嘉堂文庫美術館は、来年2022年に、
展示ギャラリーを丸の内にある明治生命館に移転します。
研究者のためのライブラリーとしての静嘉堂文庫自体は、
この地に残り、2022年以降も継続して利用されるそうですが。
現在の世田谷の地で展覧会が開催されることは、おそらくもう二度とありません。
ということは、もう二度とこの長い坂を上ることはないのでしょう。
本当に通れるのか毎回若干不安になる庭園への通路を通ることも、
このワイルドな趣きの庭園を見ることも、二度とないのでしょう。
そう思った途端、なんだかグッとくるものがありました。
もちろん、これまで何度も通ったこの建物に入ることも二度とないのでしょう。
見納めのつもりで写真を撮ったのですが、
漫画やドラマで、主人公の記憶の中にだけ現れる、
名前も顔も思い出せない逆光の人物みたいになってしまいました。
(↑何だその例え!)
と、それはさておきまして。
現在の地でのフィナーレを飾る展覧会として、
現在開催されているのが、“旅立ちの美術” という展覧会。
テーマは、『別れ』 ではなく、『旅立ち』。
「理想郷へ」 「名品の旅路」 といったキーワードで、
静嘉堂が所蔵する名品の数々を紹介する展覧会です。
(注:展示室内の写真撮影は、特別に許可を得ております。)
さよならだけどさよならじゃない。
そんな静嘉堂文庫美術館のメッセージが込められた展覧会でした。
ちなみに、前期 (4/10~5/9) だけではありますが。
見どころはなんといっても、静嘉堂が所蔵する国宝7点すべての一挙展示です。
因陀羅筆の 《禅機図断簡 智常禅師図》 も、
手搔包永による 《太刀 銘 包永》 も、
静嘉堂のマスターピース 《曜変天目》 も、
もちろん展示されています。
さらに、国宝でこそないですが、国宝級の大名物、
付藻茄子と松本茄子も、前期は揃って出展されています。
『笑っていいとも!』 のグランドフィナーレ並に豪華メンバーが勢ぞろい。
そのおかげで、いい意味で、しんみり感がなくて良かったです。
終始ワクワク楽しめる展覧会でした。
ひとまず、今までありがとうございました!
そして、新たな静嘉堂文庫美術館に、さらなる期待を込めての3ツ星。
ちなみに。
国宝7点すべてが公開されているということは、
当然、俵屋宗達による国宝 《源氏物語関屋澪標図屛風》 も出展されています。
もともとは醍醐寺が所蔵していたそうですが、
岩﨑彌之助が醍醐寺に寄進した際、その返礼として、
「どれか1つお寺の中から好きなものを選んでください」 と言われ、選んだのがこの屏風だったとか。
ちなみに、若き日に、この屏風を目にして、
大きな感動を受けたとされるのが、日本画家の速水御舟。
彼は、左隻右上に描かれた御舟にあやかって、
自らの雅号を 「御舟」 に改めたと伝えられています。
あの速水御舟が感激したほどの御舟は、
一体どんなものなのかと近づいてマジマジと観てみたのですが・・・・・。
凡人の僕には、改名したくなるほどの衝撃は受けませんでした。
舳先どうなってんの?
ていうか、思ってる以上に、舟デカくね??
その色味といい、だんだん空母のように見えてきました。
なお、全体をさらにじっくり見てみると、
御舟の表現以外にも、気になる部分を多数発見。
ヤンキー座りしてるっぽい人たちや、
ガニ股でたたずむ人&それをガン見する人など、
じわじわくる箇所がそこかしこにありました。
こんな味わい深い屏風だったなんて!
速水御舟とはまた違う感動なのでしょうが、
僕もまた 《源氏物語関屋澪標図屛風》 に感動してしまいました。
ちなみに、個人的に一番のツッコミポイントは、左隻の左上に描かれた太鼓橋。
いや、登れるか!!
もはやSASUKEのレベルです。
さてさて、展覧会には他にも、
見るからにおめでたい五世大木平藏作の御所人形や、
歪み方が絶妙で、一瞬脳がバグったのかと錯覚してしまう風炉と香棚など、
移転前に見納めしておきたい逸品・珍品が多数展示されています。
それらの所蔵品も強く印象に残りましたが、
個人的には、これまでの展覧会を振り返るコーナーも印象に残りました。
あぁ、あの展覧会もあったなァ。
そうそう、こんな展覧会もあったなァ。
と、静嘉堂文庫美術館での思い出が、走馬灯のように駆け巡りました。
もちろん、僕が訪れるようになる前の展覧会も紹介されていました。
その中で一番気になったのが、平成11年に開催されたというこちらの展覧会。
『仏教』 と書いて、『みほとけ』。
『美術』 と書いて、『おすがた』。
誰が読めんねん!