現在、ちひろ美術館・東京で開催されているのは、
“生誕111年 赤羽末吉展 日本美術へのとびら” という展覧会です。
(注:展示室内の写真撮影は、特別に許可を得ております。)
『ももたろう』 や 『スーホの白い馬』 など、
数多くの名作絵本を生み出した絵本画家・赤羽末吉。
その没後に、全遺作約6900点がちひろ美術館に寄贈されたそうです。
そういった縁から、ちひろ美術館では、
これまでに何度も、赤羽末吉を取り上げた展覧会が開催されてきました。
生誕111年を記念して開催される今展では、
彼の絵本に見られる日本美術ならではの絵画表現に着目!
実際に赤羽が使っていた画材や参考とした資料を交えながら、
赤羽が手掛けた絵本原画の魅力や秘密を紹介しています。
日本美術のさまざまな技法を駆使した赤羽。
そんな彼が日本美術をはじめて本格的に学んだのは、18歳のことでした。
とある日本画家のもとに見習いに入ったのですが。
掛軸にする絵を何枚でも同じように描くのを見て、
自分には向かないと感じ、わずか1年ほどで辞めてしまったそうです。
そこから満州にわたり、職を転々としました。
その傍らで、芸術家仲間と交流を重ね、
絵画をほぼほぼ独学で身に付けていったのだとか。
戦後になると、日本に引き揚げ、
アメリカ大使館に勤務していたそうです。
そんな彼が最初の絵本 『かさじぞう』 を発表したのは、なんと50歳の時!
絵本画家としては、意外と遅咲きだったのですね。
水気をたっぷりと含んだ墨絵の技法で、
雪の湿り気を見事に表現したこの絵が評判となり、
以降、絵本画家の道に進んでいくこととなるのです。
絵本の原画の素晴らしさにももちろん感銘を受けましたが、
個人的には、会場で紹介されていた赤羽の言葉に強く感銘を受けました。
「日本の古い伝統的な美術の美しさに
現代的な解釈を加えたものを、次の世代の子どもに伝えたい」
小さい頃から活字が好きな性分だったゆえ、
絵本における絵は、文字が読めない子どものために、
内容やストーリーを伝える役割、ツールといった副次的なものかと、
今の今まで、勝手に思い込んでいましたが。
なるほど。絵そのもので、何かを伝えることができるのですね!
いや、冷静に考えれば、絵ってそういうものですよね。
なんとなく、絵画作品と絵本の原画としての絵は、別物だと思い込んでいた気がします。
赤羽さんの言葉は、まさに目からウロコでした。
なお、今展で紹介されていた絵本の中で、
個人的にドはまりしてしまったのが、『おへそかえる・ごん』 です。
おへそを押すと口から雲が出るカエルの 「ごん」 が、
人間の少年 「けん」 や手の生えた蛇の 「どん」 とともに旅をする長編物語です。
擬人化されたカエル。
横長の画面構成。
そして、何より緩やかな線。
そう、国宝 《鳥獣戯画》 に着想を得て制作されているそうです。
どの絵も楽しげで、心惹かれたのですが、
特に目を奪われたのが、こちらの 『にゃんこ大戦争』 のキャラクターみたいなヤツ。
タコなの?クラゲなの?クジラなの??
その正体がどうしても気になって、
会場内に置かれた絵本を読んでみたところ・・・・・
キツネのこんたとタヌキのぽんたが変身したものと判明しました。
余談ですが。
ぽんたのしっぽは緑色で、こんたのしっぽは赤色でした。
赤いきつねと緑のたぬき。
《鳥獣戯画》 だけでなく、
マルちゃんにも着想を得て制作されたのかもしれません。
ちなみに。
美術館では、赤羽末吉展と同時開催として、
“ちひろの花鳥風月” という展覧会が開催されています。
ちひろさんが残した膨大な絵の中から、
日本美術の伝統的な 「花鳥風月」 を画題にしたものに焦点を当てた展覧会です。
思い返してみると、これまで一度も、
“いわさきちひろ=日本美術” という視点で見たことがなかった気がしますが。
改めて、その視点で見てみると・・・・・
琳派風の作品があったり、水墨画風の作品があったり。
日本美術の影響も受けていたということがよくわかりました。
いわさきちひろの新たな一面に気が付ける展覧会です。