この夏、すみだ北斎美術館で開催されているのは、
“THE北斎 ―冨嶽三十六景と幻の絵巻―” という展覧会です。
「極上の北斎、揃えました。」 とキャッチコピーにあるように、
すみだ北斎美術館が所蔵する二大名品を惜しげもなく大公開!
まさに “THE北斎” としか言いようのない、
まじりっけなし純度100%、完全無比な北斎展です。
ところで、すみだ北斎美術館の二大名品とは何でしょうか?
まずひとつが、《隅田川両岸景色図巻》。
100年近く海外に流失しており、
美術館の開館前に再発見されたという幻の肉筆画絵巻です。
全長は実に約7m。
隅田川両岸の景色を西洋風の陰影法を交えて描いた意欲的な作品です。
両国橋が架かる川岸の景色に始まり・・・・・
葛飾北斎 「隅田川両岸景色図巻」(両国橋から柳橋付近) すみだ北斎美術館蔵(前期展示)
蔵前や浅草の川岸の景色を経て、
最後は急に新吉原にズームイン。
葛飾北斎 「隅田川両岸景色図巻」 (新吉原での遊興の様子) すみだ北斎美術館蔵(後期展示)
屋外の景色から、いきなり屋内へ。
グーグルマップのストリートビュー感覚で楽しめる作品です (←?)。
さてさて、もう一つの名品は、
北斎の代表作中の代表作 「冨嶽三十六景」 シリーズ。
前後期合わせて46図すべてが公開されるそうです。
・・・・・とはいえ。
その人気の高さゆえ、わりと目にする機会の多い 「冨嶽三十六景」 シリーズ。
浮世絵ファンであればあるほど、
食傷気味になっているかもしれませんが。
いえいえ、浮世絵ファンこそ、特にお見逃しなく!
今展では、シリーズの中でも特に人気の高い、
《冨嶽三十六景 山下白雨》 の貴重な初摺が展示されていますよ。
葛飾北斎 「冨嶽三十六景 山下白雨」 すみだ北斎美術館蔵(前期展示)
その隣には、初摺の線のシャープさ、
摺りのグラデーションの絶妙さを際立たせるために、
比較用として、後摺のものも展示されています。
葛飾北斎 「冨嶽三十六景 山下白雨」後摺 すみだ北斎美術館蔵(前期展示)
後摺も決して悪くはないのですが、
初摺のものと比べてしまうと、やはり (ry
噛ませ犬感が半端なかったです (笑)
さらに、その隣には、初公開となる変わり版の 《冨嶽三十六景 山下白雨》 も!
葛飾北斎 「冨嶽三十六景 山下白雨」(変わり図) すみだ北斎美術館蔵(前期展示)
長谷川等伯の 《松林図屏風》 みたいなんが現れてます。
雷がリアルゴールドみたいになってます。
レア度は相当高いですが、作品としては最悪の改悪です。
おそらく北斎はこの変わり版には関わっていないとのこと。
何でこんなことしたし (笑)
この当時にも、北斎の作品からインスパイアされて、
パロディを作りたくなってしまった、しりあがり寿さんのような方がいたのかもしれませんね。
(注:しりあがり寿さんの北斎パロディは、改悪ではなく良いパロディです!)
なお。
《冨嶽三十六景 山下白雨》 3図が比較して展示されるのは前期のみ。
後期は、代わりに 《冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏》 が展示されます。
葛飾北斎 「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」 すみだ北斎美術館蔵(後期展示)
こちらの作品と比較して展示されるのが、
その約20、30年前に描かれた神奈川沖の波の絵です。
葛飾北斎 「賀奈川沖本杢之図」 すみだ北斎美術館蔵(後期展示)
まるで鉤爪のような 「冨嶽三十六景」 版の波頭と比べると、
《賀奈川沖本杢之図》 の波頭は、優しくふわふわした印象です。
カーリーヘアのよう。
「冨嶽三十六景」 版がゴジラなら、
《賀奈川沖本杢之図》 は則巻ガジラ (=ガッちゃん) です。
ちなみに、《賀奈川沖本杢之図》 は何図か確認されているそうですが、
西洋画の額縁を模したと思われる枠があるのは、すみだ北斎美術館所蔵の1点だけとか。
噛ませ犬ではなく、貴重な1点です。
ちなみに。
展覧会には、二大名品以外にも、
「諸国瀧廻り」 シリーズ、花鳥を描いた浮世絵など、
北斎の代表作が多数出展されています。
それらの中には、日本全国のナニコレな橋を描いたシリーズ 「諸国名橋奇覧」 も。
全11図が確認されているシリーズの中で、
個人的にイチオシなのが、《諸国名橋奇覧 飛越の堺つりはし》 です。
葛飾北斎 「諸国名橋奇覧 飛越の堺つりはし」 すみだ北斎美術館蔵(後期展示)
日本というよりも、『ドラゴンボール』 の世界のようですが、
どうやら飛越の堺 (=今でいうと岐阜県と富山県の間) を描いているようです。
よくよく見ると、つり橋には手すりのようなものがありません。
こんな高所に掛けられた1本橋を渡るだなんて!
『ドラゴンボール』 の世界ではなく、
完全に 『賭博黙示録カイジ』 の世界でした。
ブレイブ・メン・ロード。
渡り切ったら、2000万ペリカ貰えるのでしょうか。
最後に、二大名品以上に、
今展でもっとも見逃せない作品をご紹介いたしましょう。
それは、こちらの火鉢です。
〈葛飾北斎「桜に鷹」ほか四面版木火鉢〉 個人蔵、すみだ北斎美術館寄託(通期展示)
火鉢の一面に使われているのは、
なんと北斎の 《桜に鷹》 のオリジナルの版木。
北斎の一枚摺りの錦絵の版木は大変貴重なもので、
現在、ボストン美術館が所蔵している1点しか確認されていません。
つまり、こちらの 《桜に鷹》 のオリジナル版木が2点目。
しかも、ボストン美術館のは版木そのものとして残っているので、
火鉢に再利用されているパターンとしては、唯一無二の逸品なのです。
この超貴重な火鉢が発見されたのは、今年の2月のこと。
一般公開されるのは、今展が初めての機会です。
なお。
この 《桜に鷹》 という浮世絵自体も、
数点しか確認されていない貴重なもの。
そのうちの1点をすみだ北斎美術館は所蔵しており、
前期に限って特別に 《桜に鷹》 も出展されています。
超貴重な版木と貴重な浮世絵の奇跡の2ショット。
見逃し厳禁です!
┃会期:7月20日(火)~9月26日(日) ※前後期で一部展示替え予定
前期: 7月20日(火)~8月22日(日)
後期: 8月24日(火)~9月26日(日)
┃会場:すみだ北斎美術館