半年以上に及ぶ工事休館を経て、
先月、DIC川村記念美術館が無事に再開館を果たしました。
・・・・・と言っても、見た目は特に変わったところがないような??
DIC川村記念美術館とヘビーユーザーの僕ですら、変化した部分が見つけられません。
しかし、美観と機能性アップのために、
駐車場から庭園にいたる敷地内の屋外サイン看板を、
館内サインと統一デザインで制作し直すなど、実はいろいろ変化したのだそう。
エントランスホールの壁も、実は大きく改修されたのだとか。
(注:展示室内の写真撮影は、特別に許可を得ております。)
かつての壁の表面を覆っていた天然の小石をすべてはつって、
可能な限り、元と近い色味に調合したものをその上から塗り直したのだそうです。
また、エントランスホールの天井を飾る布でできた花の装飾も新調されたとのこと。
言われてみれば、エントランスホールが、
前よりも明るくなっていたような印象を受けました。
他にも、館内の一部の廊下や階段も改修されたそう。
劇的なビフォーアフターでこそないですが、
生まれ変わった美術館をこれからもよろしくお願いします。
さて、現在、再開館一発目に開催されているのが、
“クリストとジャンヌ゠クロード―包む、覆う、積み上げる” という小企画展。
一室を使って、DIC川村記念美術館のコレクションの中から、
所蔵するクリストとジャンヌ゠クロード作品全16点を一挙展示するものです。
ともにアーティストで、ともに1935年6月13日生まれという、
美術界きってのおしどり夫婦であるクリストとジャンヌ゠クロード。
世界各地でさまざまなプロジェクトを実現させたことで知られるアーティスト夫妻です。
例えば、こちらのプロジェクト。
クリストとジャンヌ゠クロード 《鉄のカーテン―ドラム缶の壁(パリ、ヴィスコンティ通り、1961-62年)》1968年
69.7×54.5cmスクリーンプリント、紙DIC川村記念美術館 © ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2021 G2570
約90個のドラム缶で作った高さ4mの壁で、
パリのヴィスコンティ通りを8時間塞ぐというプロジェクトです。
また、例えば、こちらのプロジェクト。
クリストとジャンヌ゠クロード 《5,600立方メートルのパッケージ(カッセル、ドクメンタ4、1967-68年)》1968年
69.7×54.5cmスクリーンプリント、紙DIC川村記念美術館 © ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2021 G2570
ドイツで開催された国際芸術展・ドクメンタ4のためのプロジェクトで、
空気の圧力によって直立する巨大なオブジェ (重さ6トン、高さ85m) を制作しました。
あまりにも巨大なため、遠方からもその姿を目にすることができたのだとか。
他にも、コロラド州にある2つの山の中腹に、幅約380mのカーテンをかけたり、
茨城県とカルフォルニアにそれぞれ1340本の青い巨大な傘と1760本の黄色の巨大な傘を設置したり。
クリストとジャンヌ゠クロードは、シンプルなアイディアながら、
途方もない労力と金額がかかるプロジェクトを次々と実現させてきました。
なお、彼らは、プロジェクトにかかる交渉はすべて自ら行っています。
しかも、資金を得るのもすべて自分たちで。
政府や企業、美術館ら支援者の援助は、
一切受け取らないというのが彼らのポリシー。
プロジェクト実現のために制作した縮尺模型や、
コラージュ作品などを販売して得た資金でプロジェクトを実現させてきました。
DIC川村記念美術館が所蔵している作品群も、まさにそうして制作されたもの。
ちなみに、エディションをよく見ると、100/100となっていました。
ラスイチだったのですね (←?)。
そんなクリストとジャンヌ゠クロードの数あるプロジェクトの中で、
もっとも代表的なモノが、巨大な建造物を巨大な布と紐で梱包するというもの。
過去には、セーヌ川にかかるパリ最古の橋ポンヌフや、
ベルリンにある旧帝国議会議事堂 (ライヒスターク) などを梱包しています。
ただ、彼らが梱包したいと思って、
いくら資金を集め、いくら交渉をしたところでも・・・・・
クリスト 《包まれたホイットニー美術館(ニューヨークのためのプロジェクト)》1971年
71.0×55.8cmリトグラフ、布、麻ひも、糸、ポリエチレン、ステープルのコラージュ、紙DIC川村記念美術館
© ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2021 G2533
ダメなものはダメ。
ホイットニー美術館の例のように、
実現しなかったプロジェクトも多々あるそうです。
冷静によくよく考えたら、彼らのプロジェクトは、
「・・・・・それの何が面白いの?」 と思うものばかりなのですが。
その実現に、長い年月をかけ、全身全霊で取り組む彼らの姿勢や、
その熱意に打たれて、周囲の人間が動いたという事実に大きな感動が生まれるのです。
ヒッチハイクだけで、ユーラシア大陸を横断する。
懸賞だけで100万円分を稼ぐ。
程度は全然違いますが、
芸人のチャレンジ企画に近いものを感じました。
さてさて、2009年にジャンヌ゠クロードがこの世を去った後も、
2人で構想したプロジェクトを、たくさんのハードルを乗り越え、実現させてきたクリスト。
そんな彼も、昨年5月31日に84歳で逝去されました。
実は、昨年4月6日から19日にかけて、
とあるプロジェクトが実現される予定だったのですが、コロナの影響で延期に。
残念ながら、クリストは実現した光景を目にすることが叶いませんでした。
そのプロジェクトというのが、こちら↓
クリスト 《包まれた公共建築(プロジェクト)[パリの凱旋門]》1968年
54.5×69.7cmスクリーンプリント、紙DIC川村記念美術館
All works © ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2021 G2570
パリの凱旋門を梱包するというプロジェクトです。
2人がこの構想を始めたのは、なんと1962年とのこと。
実に約60年の時を経て、ようやく実現にこぎつけたのです。
つくづくクリストが亡くなったのが残念でなりません。
さて、延期になっていたこのプロジェクトが、
いよいよ9月18日から10月3日の16日間で実現されます。
現地の模様もすでに、YouTubeでライブ中継されているようです。
おそらく期間中は、フランスには行けなさそうですが、
リアルタイムのライブ中継で楽しむことにしたいと思います。