今年2021年は、思想家にして美学者、宗教哲学者、
“民藝運動の父” こと柳宗悦の没後60年という節目の年。
ホームスパンを着る柳宗悦 日本民藝館にて 1948年2月 写真提供:日本民藝館
それを記念して、現在、東京国立近代美術館では、
“柳宗悦没後60年記念展 民藝の100年” が開催中です。
(注:展示室内の写真撮影は、特別に許可を得ております。)
会場では、柳宗悦が設立した日本民藝館の所蔵品を中心に、
実に400点を超える民藝の作品や資料などが紹介されています。
それらの中には、柳が調査のために日本全国を旅するきっかけとなった木喰仏や、
木喰五行 《地蔵菩薩像》 1801年 日本民藝館
数ある丹波焼の中で特に名品中の名品とされる 《自然釉甕》 など、
柳自身によって蒐集された民藝の逸品が数多く含まれていました。
また、大きすぎて、おそらく日本民藝館では、
展示される機会がなかったであろうこんな作品も。
1941年開催の“日本全国民藝品展” で、
公開された 《日本民藝地図(現在之日本民藝)》 です。
全長13メートル。
カラフルな日本地図上に500件を超える民藝の産地が表されています。
こんなに大きくなくていいので、ポケット版を発売して欲しいものです。
地図と言えば、こんな展示品もありました。
その名も、「鉄道競争すごろく」。
こちらは、柳が集めたものでも、民芸の名品というわけでもなく。
鉄道を中心とした交通網の発達とともに旅行ブームが起こり、
それが民藝運動推進の大きな原動力となったことを紹介する資料として展示されていたものです。
制作されたのは、1925年とのこと。
日本全国の路線図をすごろくに見立てる。
『桃太郎電鉄』 の発想は、ほぼ100年前から存在していたのですね。
ちなみに。
くれると言われたら (←誰が言うか!)、
ぜひぜひ欲しい展示品はたくさんありましたが。
個人的に印象に残っているのは、
河井寛次郎の 《海鼠釉渦文皿》(画面右) です。
ぐるぐるとした線が今にもゆっくりと動き出しそうな。
いや、実際動いていたような。
『ウルトラQ』 のオープニングを思わず連想させるものがありました。
それからもう一つ印象的だったのが、
唐津焼の 《鉄絵緑彩松文鉢》(画面左) です。
・・・・・・・・・・松なのか?
何がどうしてこうなったのか、いろいろ謎。
ツッコミどころが多すぎて、いや、ツッコミどころしかなくて、
もはや、どこから手を付けていいかわからないレベルです。
松を描くのが苦手なら、最初から描かなければいいのに。
さてさて、実は、柳宗悦。
東京国立近代美術館が開館した際に、こんな文章を発表しています。
「第一に、近代美術館は官設であるが、民藝館は私設である。つまり 「官」 と 「野」 の違ひである。
近代美術館は 「現代の眼」 を標榜してゐる。併し民藝館は「日本の眼」 に立たうとする。
近代美術館は、その名称が標榜してゐる如く、「近代」 に主眼が置かれる。
民藝館の方は、展示する品物に、別に 「近代」 を標榜しない。
近代美術館が今迄取り扱った材料を見ると、
大部分が所謂 「美術」 であって、「工藝」 の部門とは縁がまだ薄い。」
柳宗悦 「近代美術館と民藝館」『民藝』 第64号 (1958年4月1日発行)
つまり、まぁ、ディスっているわけです。
あれから63年。
こうして東京国立近代美術館で、
柳宗悦をフィーチャーした展覧会が開催されたというのは、
おぼん・こぼんが仲直りしたくらいに、感慨深いものがありました。
┃会期:2021年10月26日(火)~2022年2月13日(日)
┃会場:東京国立近代美術館