■短編回廊 アートから生まれた17の物語
作者:ローレンス・ブロック、スティーヴン・キング、ジョイス・キャロル・オーツ他
出版社:ハーパーコリンズ・ ジャパン
発売日:2021/5/26
ページ数:576ページ
作家ローレンス・ブロックは頭を悩ませていた。
エドワード・ホッパーの絵から紡いだアンソロジー、
『短編画廊』 の第2弾を計画しているのだが、いったい今度は誰の絵をモチーフにすべきか。
思い悩んだ末、ブロックはある考えにたどり着く。
何もひとりの画家でなくていい。
今度は作家たちに、好きに名画を選んでもらおう。
かくして、ジェフリー・ディーヴァーはラスコー洞窟壁画を。
S.J.ローザンは葛飾北斎を。
リー・チャイルドはルノワール、ジョイス・キャロル・オーツはバルテュス…といった具合に、
今回も個性豊かなアートから物語が生まれ、新たなる “芸術×文学” の短編集が完成する。
名だたる作家17人による文豪ギャラリー第2弾。
(「BOOK」データベースより)
「先日ご紹介した 『短編画廊 絵から生まれた17の物語』 の第2弾。
前作は、エドワード・ホッパーの作品縛りでしたが、
今作は、特に芸術家を限定することは無く、
作家は好きな芸術家の好きな作品をチョイスすることが可能となっています。
ある作家は、ヒエロニムス・ボスの 《快楽の園》 を、
ある作家は、葛飾北斎の 《富嶽三十六景 神奈川沖浪裏》 を、
このアンソロジーの企画者であるローレンス・ブロックは、
ミケランジェロの 《ダヴィデ像》 をもとにした短編を掲載していました。
時代も画風もジャンルも、何でもあり。
それゆえ、全体的な統一感は無かったです。
一冊の短編集というよりも、もっと固定されていない印象で、
Amazonプライム・ビデオやNetflixで、気になった動画をつまみ食いする、
あの感じに近いものがありました。
短編のもととなる美術品は、幅が広かったですが、
全部で17編ある短編それぞれは、意外と幅が広くなく。
なんとなく、ミステリやホラーサスペンスに偏っていました。
しかも、バッドエンドのものが多め。
この本のせいで、「アート=怖い、気味が悪い」 という印象が広まらないか若干心配です。
特に印象に残っているのは、デヴィッド・マレルによる 『オレンジは苦悩、ブルーは狂気』。
ゴッホ (物語の中では、ファン・ドールンという名前に) を研究すると、
もれなく彼同様に精神を病んでしまい、やがては目にハサミを刺してしまう、という設定のお話。
一体、彼の絵に隠された秘密とは何なのか。
そして、なぜ彼の絵に魅せられた人間は、彼の狂気に感染してしまうのか。
中田秀夫監督のホラー映画のようなテイストのお話でした。
この短編を読んでしまうと、ゴッホの絵に近づけなくなります。
ゴッホ展を訪れる前に読まなくてよかった。
それと、ゲイル・レヴィンの 『ジョージア・オキーフの花のあと』 も印象に残った一編。
ジョージア・オキーフ本人にインタビューを申し込んだ女性研究者を主人公にしたお話。
小説というよりも、実際のインタビュー記事を読んでいるかのようなリアリティがありました。
リアリティがありすぎて、オキーフのイメージが悪くならないか、少しヒヤヒヤしてしまいました。
イメージが悪くなると言えば、ジョイス・キャロル・オーツの 『美しい日々』 も。
こちらは、バルテュスをモチーフにした短編です。
数年前にMetoo運動が広がった際に、
メトロポリタン美術館でバルテュスの作品を撤去すべきかどうか、
大きな議論が巻き起こったのは、記憶に新しいところ。
すっかり沈静化してきた感がありましたが、
この短編が新たな火種になるような気がしてなりません。
あとは、やはり何と言っても面白かったのは、
『ボーン・コレクター』 シリーズでお馴染みのジェフリー・ディーヴァー。
彼がモチーフに選んだ美術品は、なんとラスコーの洞窟絵。
そこからこんな設定を思いつくだなんて。
“どんでん返しの魔術師” だけに、
ラストまで展開がまったく読めませんでした。
発想力が芸術的。
(星3)」
~小説に登場する名画~
《人類に恥を知らせるため井戸から出てくる〈真実〉》