現在、世田谷美術館で開催されているのは、
“グランマ・モーゼス展 素敵な100年人生” という展覧会です。
(注:展示室内の写真撮影は、特別に許可を得ております。)
タイトルには、“100年人生” とありますが、
正確には101歳で亡くなるまで絵を描き続けたアメリカの国民的画家、
「グランマ・モーゼス (モーゼスおばあちゃん)」 ことアンナ・メアリー・ロバートソン・モーゼスの展覧会です。
彼女の回顧展が日本で開催されるのは、実に16年ぶり!
アメリカから初来日する作品やモーゼスの愛用品、関連資料を中心に、
世田美やハーモ美術館など国内所蔵作品を併せた約130点が紹介されています。
グランマ・モーゼスは、人生の大半を農婦として過ごした人物。
子どもたちが巣立ち、夫に先立たれた彼女が、
本格的に絵を描くようになるのは、なんと70代半ばでのことでした。
独学で描いたモーゼスの絵は、お世辞にも巧くはありません。
それらの絵を、彼女は近所のドラッグストアで、
賞を取るほど評判の手作りジャムと並べて販売していました。
しかし、当然売れるのは、ジャムばかり・・・。
それから数年、モーゼスが78歳の時に転機が訪れます。
偶然ドラッグストアに立ち寄った美術コレクター、
ルイス・カルドアによって、すべての作品が購入されたのです。
その時に買われた作品のうちの1点が、こちら↓
アンナ・メアリー・ロバートソン・“グランマ”・モーゼス 《初めての自動車》 1939年以前
個人蔵(ギャラリー・セント・エティエンヌ、ニューヨーク寄託) © 2021, Grandma Moses Properties Co., NY
ほのぼのとした空気が画面全体に満ちていますね。
・・・・・・って、冷静に考えると、運転手もこっち見ていますね!
完全なるよそ見運転。
危ないので、「こっち見んな!」 と言いたくなる一枚です。
ちなみに。
《初めての自動車》 に限らず、
モーゼスの絵に登場する人物のほとんどがこちらを向いています。
アンナ・メアリー・ロバートソン・“グランマ”・モーゼス 《シュガリング・オフ》 1955年
個人蔵(ギャラリー・セント・エティエンヌ、ニューヨーク寄託) © 2021, Grandma Moses Properties Co., NY
アンナ・メアリー・ロバートソン・“グランマ”・モーゼス 《農場の引越し》 1951年
個人蔵(ギャラリー・セント・エティエンヌ、ニューヨーク寄託) © 2021, Grandma Moses Properties Co., NY
しかも、基本的に丸顔。
TwitterやInstagramに写真を挙げる際に、プライバシーに配慮して、
顔をステッカーで隠しているあの感じを彷彿とさせるものがあります。
・・・・・と、それはさておき。
モーゼスを最初に見出したカルドアがの尽力のおかげで、
モーゼスの作品は、美術関係者の目に触れる機会が増えていきます。
そこからは、まさにアメリカンドリームな人生!
80歳で、NYにて個展デビュー。
全米各地で展覧会を開催。
『TIME』 や 『LIFE』 誌の表紙を飾る。
当時の人気女優によるドラマ化。
時の大統領トルーマンからお茶に招待される…etc
しかし、どんなに有名になっても、彼女は決して驕ることなく、
晩年まで、元と変わらず堅実な暮らしを続け、絵を描き続けたそうです。
さて、会場には、絵画を始める前から得意だったという刺繍絵から、
アンナ・メアリー・ロバートソン・“グランマ”・モーゼス 《海辺のコテージ》 1941年
個人蔵(ギャラリー・セント・エティエンヌ、ニューヨーク寄託) © 2021, Grandma Moses Properties Co., NY
100歳の時に描いた絶筆の 《虹》 まで、
アンナ・メアリー・ロバートソン・“グランマ”・モーゼス 《虹》 1961年
個人蔵(ギャラリー・セント・エティエンヌ、ニューヨーク寄託) © 2021, Grandma Moses Properties Co., NY
モーゼスがその長い人生の間で、
コツコツと制作した作品の数々が一堂に会しています。
テイストこそ似たような感じですが、不思議と見飽きることはありませんでした。
素朴な味わいゆえ、いくらでも食べられる感じです。
また、どの作品もほのぼのとしているので、
観れば観るほど、気持ちがほぐれていきます。
モーゼスの作品と一緒にいるとぽかぽかすること必至です。
ちなみに。
これはきっと僕だけでしょうが、鑑賞中は脳内でずっと、
フォスターの 『ケンタッキーの我が家』 が再生されていました。
観終わった後に、無性にケンタッキーフライドチキンが食べたくなりました。
あと、無性にカントリーマァムも。
┃会期:2021年11月20日(土)~2022年2月27日(日)
┃会場:世田谷美術館