現在、ちひろ美術館・東京で開催されているのは、
“ちひろの歩み―童画から絵本へ—” という展覧会です。
(注:展示室内の写真撮影は、特別に許可を得ております。)
名実ともに日本を代表する絵本画家であるいわさきちひろ。
彼女がいかにいて、絵本画家となったのか。
その画業の歩みをたどる展覧会です。
幼い頃より、絵が好きで絵の才能にも恵まれていたというちひろ。
しかし、画家として本格的に活動を開始するのは、27歳の頃とのこと。
今でこそアラサー女性はまだ現役バリバリで活動していますが、
この当時は、アラサーで働いている女性はとても珍しいことでした。
そんな中、新聞記者として働きつつ、
洋画家の丸木俊にデッサンを学んでいたようです。
なお、この頃から、絵のモチーフは子どもが多かったのだとか。
当時のアバンギャルドな展覧会に、
子どもを描いた絵を出品しては、周囲を困惑させていたのだそう。
確かに、冷静に考えてみれば、
イロモノだらけの展覧会の一角に、
子どもを描いた絵があるのは、逆に浮いているような。
一周回って、いわさきちひろが一番アバンギャルドなのかもしれません。
さて、展覧会では、「よいこのくに」 や 「キンダーブック」 といった、
絵雑誌を舞台に活躍していた童画家時代の貴重な原画の数々や、
絵本史にも残る傑作 『あめのひのおるすばん』 をはじめ、
ちひろの代表的な絵本の原画の数々が紹介されていました。
もちろんどの絵も可愛いのですが。
ちゃんと流れを追って観てみると、
純粋に絵が可愛い童画家時代と比べて、
絵本作家時代は、スタイルが実験的であることに気が付かされます。
“可愛いの向こう側” を追い求めているといった印象。
改めて、稀代の芸術家であったことを実感させられました。
いい意味で、いわさきちひろのイメージが変わる展覧会です。
ちなみに。
展示されている作品の中で特に印象的だったのは、
童画家時代のちひろが手掛けた世界の童話の表紙絵や挿絵の数々です。
それらの中には、『アルプスの少女』 を描いたものもありました。
ちひろver.のハイジは、アニメver.と違って、
とても優しく柔らかく、おっとりとした印象です。
異様に長いブランコで遊んだり、
アルムの山を猛ダッシュしそうにはありませんでした。
それと、もう一つ印象的だったのが、
ちひろさんによって描かれた金太郎です。
金太郎に相撲で負けた熊の表情が、実に優しげ。
忖度して負けてあげたのは明らかです。
なお、現在、ちひろ美術館・東京では、
“ピエゾグラフによる わたしの好きなちひろ展” が同時開催中。
こちらは、先行して安曇野ちひろ美術館で開催されていた展覧会の東京版です。