先日は、浜松市秋野不矩美術館に行ってきました。
明治生まれの女流画家・秋野不矩 (ふく) の生地である、
静岡県浜松市天竜区の丘の上に建てられた美術館です。
丘の下にある駐車場に車を停め、
長い長い上り坂をゆっくりゆっくり上って美術館へ。
ふとサイドに目をやると、そこにはベンチが設置されていました。
足を休めたい方のための配慮が万全ですね。
さらに、その先にも目を向けると・・・・・・
椅子が無数に立ち並んでいるではないですか。
いや、そんなに座る人いないだろ!!
さらにさらに、美術館の建物の目の前にも・・・・・・
大量のベンチが置かれていました。
もういいよ!!
数個あれば、優しさですが、
こんなにもたくさんベンチや椅子があると、軽く恐怖すら覚えます。
何でそんなに座らせたいねん。
おそらく、日本一、いや世界一ベンチが多い美術館。
それが、浜松市秋野不矩美術館です。
と、ベンチの異常な数にばかり気が取られてしまいましたが、
冷静に観てみると、美術館の建物もなかなかに異彩を放っています。
こういったテイストの建築を作るのは、もちろんあの人。
多治見市モザイクタイルミュージアムや、
ラ コリーナ近江八幡の設計で知られる藤森照信さんです。
美術館建設の決定を受け、日本各地の建物を見て周った生前の秋野不矩。
その彼女がもっとも気に入った建物が、
藤森さんの建築家デビュー作である神長官守矢史料館でした。
当時藤森さんは公立の建物を設計した経験がありませんでしたが、
秋野不矩の猛烈なプッシュにより、彼女の美術館を作ることとなったのです。
なお、美術館の向かいには、開館20周年を記念し、
藤森さんによって新たに作られた茶室 「望矩楼」 も。
藤森建築ファンなら、
是非とも抑えておきたい美術館の一つです。
ちなみに。
他の藤森建築同様に、
外観だけでなく内部やテラスも独創的。
他のどこにもない唯一無二の空間でした。
唯一無二といえば、靴に関するレギュレーションも。
館内に入ると、まず靴を脱ぎ、
スリッパに履き替えなくてはなりません。
かつての太田記念美術館や日本民藝館など、
土足厳禁の美術館自体はそう珍しくはないのですが。
スリッパに履き替え、数メートル進むと、
展示室の前でスリッパを脱ぐように指示されます。
展示室では素足、一青窈スタイル (?) が、
浜松市秋野不矩美術館でのルールなのです。
さてさて。
今年度、浜松市秋野不矩美術館では、
「ゼロ発祥の地インド」 というシリーズが開催中。
現在はその4弾となる “動物と子どもたち” が開催されています。
50代でインドに赴任したのをきっかけに、
インドに魅せられ、93歳で亡くなるまで計14回もインドを訪れた秋野不矩。
その画家人生の中で、《廻廊の壁画》 や、
《海辺のコッテージ》 など、
インドの光景を描いた作品を多く残しています。
大画面に描かれた作品が多く、目の前に立つと、
まさにインドにいるかのよう臨場感を味わえました。
耳を澄ませば、音が聞こえてくるような、
しばらく佇んでいると、日差しや湿度が感じられるような、
あと、心なしか、カレーの匂いも漂ってくるような。
五感で味わえる作品群でした。
なお、一番印象に残っているのは、
こちらの 《ガンガー》 という作品です。
パッと見、抽象画のようですが。
描かれているのはガンガー、つまりガンジス河です。
その広大な河を、一列に並んだ水牛が渡る場面が描かれています。
一頭だけあきらかに遅れを取ってる水牛の姿に、なぜか不思議と感情移入してしまいました。
一青窈スタイルで鑑賞していたのもあって、思わず “もらい泣き”。