現在、サントリー美術館で開催されているのは、
“よみがえる正倉院宝物―再現模造にみる天平の技―” という展覧会です。
(注:展覧会は撮影不可。特別に許可を得ております。)
聖武天皇ゆかりの品を多く含む、
正倉院正倉に伝えられた約9000件におよぶ宝物。
それが、正倉院宝物です。
正倉院宝物の名品は希少性が高く、保存の観点から、
毎年、奈良国立博物館の展覧会で一部が公開されるに過ぎません。
今展で紹介されているのは、そんな正倉院宝物のホンモノ・・・・・・・
ではなく!!
明治以降に作られた再現模造作品の数々です。
“・・・・・・・な~んだ。レプリカか。”
そう思った方もいらっしゃることでしょう。
確かに、正倉院宝物のホンモノではありません。
しかし、今回展示されているのは、国の威信をかけて、
当代の芸術家によって、可能な限り精巧に再現された逸品ばかりです。
例えば、こちらの 《螺鈿紫檀五絃琵琶》 の模造品。
当たり前ですが、パッと見が似ているだけでなく、
裏側や細部の細部まで、完璧に再現されています。
もちろん材料も実物と同じものを使用するために、
今では入手困難n紫檀や玳瑁 (=海ガメの甲羅) を探すところから始めたそう。
そのため、材料の入手に数年、
すべてを完成させるのに、全部で15年かかったそうです。
ひょっとすると・・・いや、ひょっとしなくても、
正倉院にあるホンモノよりも、作るのが大変だったはず。
正倉院宝物を完璧に再現したい。
その熱意は、間違いなく “ホンモノ” です
そんな人々の苦労を思い浮かべた上で観てみると、
奈良博の正倉院展とはまた違った感動がありました。
また、現時点での正倉院宝物よりも、
再現模造品のほうが、当時の姿に近いため、
純粋に、美術品として鑑賞することができました。
まず何よりも印象的だったのは、
正倉院宝物が意外とサイケデリックだったこと。
大胆なモチーフ。
ビビッドな色使い。
1960年代カルチャーを感じさせるものがありました。
1周どころか、もはや10周くらい回って新しい印象を受けました。
また、意外といえば、
「えっ、こんなものも正倉院宝物なの?」 というアイテムがたくさんあったこと。
例えば、箒。
例えば、碁石。
また例えば、スッポンの置物なんかもありました。
個人的に一番感銘を受けたのは、
佐波理 (=銅と錫の合金) 製の加盤 (=入れ子状のお椀) です。
これからの加盤は寸分の狂いもなく、
ジャスト一回りずつサイズ違いで作られているようで。
全ての椀を重ねると、こんな風に収納できるようです↓
少なくとも奈良時代から、
ティファールと同じシステムが存在していただなんて!
それも、手業で実現させていただなんて!
工芸大国ニッポン。
その源流を目の当たりにしたような気がします。
ちなみに。
今展では工芸品だけでなく、多色コロタイプ印刷によって、
精緻に再現された奈良時代の役所の文書の数々も紹介されていました。
SDGsという言葉はまだありませんが、この当時は紙が貴重だったため、
かつて使われた行政文書の裏面に、新たな行政文書を書くことがざらだったそう。
模造品はその裏面まで忠実に再現されていました。
それら再現された文書の中で特に印象深かったのが、
《続修正倉院古文書 第二十巻 [写経生請暇解]》 です。
こちらは、写経を担当する職人たちが、
仕事先に提出した休暇願22通を収録したもの。
その休暇の理由は実にさまざまで。
「汚れた作業服の洗濯」 であったり、
「盗まれた家財の捜索」 であったり。
今も昔も、嘘っぽい理由で仕事を休む人はいたようです。