美術の世界には、奇跡を起こしたヒーローが数多く存在する。
もしも、そんな彼らにヒーローインタビューを行ったなら・・・?
インタビュアー (以下:イ) 「放送席、放送席。
こちらには、キリストさんの一番弟子で、
初代ローマ教皇でもあるペテロさんにお越しいただいております」
ペテロ(以下:ペ) 「あ、どーもー。ペテロでーす」
イ 「あれ、意外とフランクな感じの方なんですね。
一番弟子とうかがってましたので、
てっきり、もっと生真面目な感じの方なのかと」
ペ 「全然そんなことないよ。
あれだったら、俺のこと、“ぺーやん” って呼んでくれてもいいし」
イ 「いや、それはさすがに呼べないですけど」
ペ 「俺ね。一応、一番弟子ってことになってるけど、
キリストさんには、マジでよく怒られてたからね」
イ 「そうなんですか?」
ペ 「そうなのそうなの。
最後の晩餐で有名なあの日のことなんだけどさ、
食事の前に、キリストさんが急にたらいに水を汲んでね。
何すんだろう、と思ったら、俺ら弟子の足を洗うって言うわけよ」
ティントレット 《弟子の足を洗うキリスト》
イ 「師匠自らですか?」
ペ 「俺らも、くりびつてんぎょういたおどろ。
「キリストさん、そんなことしないでいいです」 って断ったわけ」
イ 「普通に考えたらそうなりますよね」
ぺ 「でも、師匠は俺らの足を洗うんだってきかないもんだからさぁ。
俺は師匠にこう言ったわけ」
イ 「はい。何て言ったんですか?」
ぺ 「「あ、じゃあ、ついでに手と頭も洗ってくださーい」 って」
イ 「えっ?は?」
ぺ 「そしたら、キリストさん怒っちゃって。
「俺は足しか洗わん」 だって」
イ 「そりゃ、そうなりますよね。
どのタイミングで調子に乗ってんですか?」
ぺ 「調子に乗ったといったら、キリストさんが海の上を歩いたあの時も」
イ 「今さらっとすごいこと言いましたね。
キリストさんって海を歩けるんですか」
ぺ 「ある夜、俺が船に乗ってたら、海の上に誰か立ってるわけ。
くりびつてんぎょういたおどろ」
イ 「そのギャグ好きですね・・・」
ペ 「最初は幽霊かと思ったんだけど、よく見たらキリストさんだったのよ。
で、それ見てたらさ、俺も海の上を歩きたくなっちゃって」
イ 「え?ペテロさんも海の上、歩けるんですか?」
ぺ 「いや、普通に溺れたし」
ロレンツィオ・ヴェネツィアーノ 《溺れるペテロを救うキリスト》
イ 「歩けないんかい!」
ぺ 「もちろん歩いたことなんてなかったけど。
なんか歩けそうな気がしたのよ」
イ 「典型的な、調子に乗ってやらかすタイプの人間ですね」
ぺ 「まぁ、でも、あの例の一件以来、俺も猛省してさ。
調子に乗らないように、心を入れ替えたんだから」
イ 「なるほど。それが例の奇跡の話ですね」
ぺ 「そうなんだよ。最後の晩餐をみんなで食べてた時に、
「この中に一人裏切り者がいる!」 って言ったってのは有名でしょ」
イ 「はい。それは聞いたことがあります」
ぺ 「さらに、「この後、自分は捕まる。でも、弟子はみんな逃げる」 って続けたの。
さすがに、俺ら、キリストさんを見捨てて逃げるわけないじゃん」
イ 「ですよね」
ぺ 「しかも、キリストさん、俺にこんなことも言ったわけ。
「お前は、鶏が鳴く前に、私のことは知らないと3回言うだろう」 って。
いやいや、いくら俺がお調子者でも、マジでそんなことしないから!
まぁ、1回くらいなら言うかもだけど、3回はいくらなんでも」
イ 「弟子なら、1回も言っちゃダメですよ。
で、結局のところ、どうなったんですか?」
ぺ 「キリストさんは捕まったでしょ。
で、俺らみんな逃げたでしょ」
イ 「当たってるじゃないですか!」
ぺ 「だって、怖かったんだもん。
でもさ、その後、俺勇気を出して、
キリストさんが捕まえられている屋敷に忍び込んだわけ」
イ 「おー、エラいですね!」
ぺ 「だろ?それで、そーっと助けようとした次の瞬間に、
召使いの女に見つかって、「あなた、キリストと一緒にいた人よね?」 と聞かれたの」
カラヴァッジョ 《聖ペテロの否認》
イ 「何て答えたんですか?」
ぺ 「キリスト?ちょっと何言っているのかわからない」
イ 「早速、1回目!」
ぺ 「そしたら、別の召使いの女が出てきて、
「この人、絶対キリストと一緒にいた人だ」 って騒ぎ始めて」
ヘラルト・ファン・ホントホルスト 《聖ペテロの否認》
イ 「そこはさすがに認めましたよね」
ぺ 「キリスト?なんだそれ?うめぇのか?」
イ 「孫悟空か!」
ぺ 「さらに、もう一人出てきてさ。
「確かに。お前はキリストの仲間だ。言葉のなまりではっきり分かる」 とか言うわけ」
イ 「え?もしや・・・」
ぺ 「キリストなんてマジで知らないです!
キリスト・・・いや、神に誓って知らないです!」
イ 「やっぱり!何で正直に言わないのかなぁ」
フランシスコ・コランテス 《聖ペテロの否認》
ぺ 「そしたら、そのタイミングで、鶏の鳴き声が聞こえてきて。
あっ、キリストさんが、そういえば、そんなこと言ってたような」
イ 「今頃気づいたんですか」
ぺ 「あぶなかったー。あと1回、知らないって言ってたら、
完全にキリストさんの予言通りになってたところでした」
イ 「ちょっとちょっと!何しれっと1回ごまかしてんですか?
あなた、ちゃんと3回知らないって言ってましたから」
ぺ 「そうでした?」
イ 「そうでした」
ぺ 「てへぺろ」
イ 「は?」
ぺ 「てへぺろペテロ」
イ 「ずっと調子乗ってんな、この人。
もうインタビュー終わり終わり!こちらからは以上!放送席にお返しいたします」
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