西麻布の交差点のほど近くに異彩を放つ建築があります。
その名は、The Wall。
もし、名前は知らなくとも、
一度でも目にしたことがあれば、
その強烈なインパクトから、必ずや記憶に残っていることでしょう。
発表するアイディアがあまりにも斬新だったため、
そんな彼の才能に惚れ込んだとあるオーナー (当時) が、
バブル期真っただ中に、彼にオファーし、完成したのがThe Wallなのです。
「古典とアバンギャルドの融合」 をテーマにした、
この唯一無二の建物そのものが、無料で観れる美術作品ではありますが。
実は、大通りに面したこの建物の壁に、
あの大物現代美術家の作品が埋め込まれているのです。
続・無料で観れる美術百選019
グレイソン・ペリー 《無題》
作者は、グレイソン・ペリー。
これまでに、大英博物館やアムステルダム市立博物館、
金沢21世紀美術館など、世界各地で個展が開催されています。
2015年には、ロンドン芸術大学の総長に任命。
名実ともに、イギリスを代表する現代アーティストです。
10代の頃より、異性装者であることを自覚し、
公の場において、たびたび女装した姿で登場するグレイソン・ペリー。
日本での知名度はそこまで無いかもしれませんが、
イギリスで最も発行部数の多い新聞 『デイリー・テレグラフ』 において、
「イギリス文化において最も影響力のある100人」 に選ばれたほどの国民的芸術家です。
制作する作品は、絵画や版画、タペストリーなど多岐に渡りますが。
もっとも彼が得意とするのは、陶芸です。
さまざまなモチーフをコラージュのように、
パッチワークのように組み合わせるのが、ペリースタイル。
古典的なモチーフもあれば、彼が好きだというオートバイや、
1989年に作られたらしく、ブラウン管テレビといった時代を感じるモチーフをも見て取れます。
観れば観るほど、発見がある。
小ネタの多い作品です。
なお、この作品が制作されたのは、1989年。
アニッシュ・カプーアやダミアン・ハーストも、
歴代受賞者に名を連ねるイギリスの現代美術賞ターナー賞を、
グレイソン・ペリーが受賞したのは、2003年のこと。
つまり、この作品は彼がブレイクするまだまだ前、
地下芸人ならぬ、地下アーティスト時代に作られたものということになります。
それだけに、逆にめちゃめちゃ貴重な作品といえそうです。
実際、世界的芸術家の彼の作品は、テート・ロンドンや、
ヴィクトリア&アルバート美術館といった一流のミュージアムに所蔵されています。
そんな彼の作品が無料で、
しかも、公共の場で展示されているのは、
世界広しと言えども、ここ西麻布だけではなかろうか。
ちなみに。
The Wallが竣工した当時は、完全に剝き出しだったそうです (←アバンギャルド!)
しかし、さすがにグレイソン・ペリーの評価が高まったため、
ある時期から、特注のガラスケースで作品を囲うようになったのだとか。
ガラスケースに入っても、
グレイソン・ペリーの作品の素晴らしさは変わりません。
<無料で観れる美術 データ>
The Wall
住所:東京都港区西麻布4-2-4
アクセス:○東京メトロ「広尾駅」 より徒歩約8分
○東京メトロ「乃木坂駅」 より徒歩約10分
○東京メトロ・大江戸線「六本木駅」 より徒歩約10分