その生涯を97歳で終えるまでの最後の約30年間、ほぼ家を出ることなく、
絵を描き続けたという逸話から、『画壇の仙人』 とも称される洋画家・熊谷守一。
その自宅兼アトリエの跡地に、守一の二女である熊谷榧が、
1985年に私設美術館として設立したのが、熊谷守一美術館です。
(2007年からは、豊島区立の美術館に)
その開館記念日である5月28日を挟むように、
毎年開催されているのが、周年記念の特別企画展。
現在開催中の今年の特別企画展では、
守一の故郷である岐阜県中津川市に、
2015年にオープンした熊谷守一つけち記念館全面協力の元、
2つの熊谷守一美術館のコラボが実現しています。
なだらかに傾斜した床面が特徴的な1階の展示室は、「守一の庭」 がテーマ。
(注:展覧会は一部撮影可。展示室内の写真撮影は、特別に許可を得ております。)
かつてこの地にあった庭から、守一が着想を得た、
もしくは、得たと思われる作品の数々が紹介されています。
豊島区の住宅街の一角にあった庭ゆえ、
それほど変わった植物が植えられていたり、
それほど珍しい鳥や虫が観察できたわけではありません。
言ってしまえば、どこにでもあるような何気ないモチーフなのですが、
守一のフィルターを通すと、不思議なくらいに愛おしく魅力的になります。
その独特の匂いから敬遠されがちな、
ドクダミだって守一が描くと、こんなにも可愛らしい姿に。
また、見慣れた花も、守一の手にかかれば、
これまでに見たことの無い斬新な姿に変身します。
ポップでカラフルな丸と四角だけで描かれた、
抽象画のようなこの作品のタイトルは、《あぢさい》。
そう言われてみれば、なんとなく、アジサイに見えて・・・・・・・きませんでした。
(注:個人の感想です)
なお、この作品は守一が90歳の頃に描いたもの。
なんと若々しい感性なのでしょう!
ちなみに。
その2年後、92歳の時に描いたのが、こちらの 《ざくろ》。
さらに感性が若返っているような。
年齢を重ねれば重ねるほど若返る。
逆ベンジャミン・バトンのような人物です (←?)。
ちなみにちなみに。
展覧会では、98歳の守一が描いた、
絶筆となる油彩画 《アゲ羽蝶》 も展示されていました。
パット見、黒一色で描かれているように思えますが、
上の翅と下の翅が、ちゃんと描き分けられています。
長年、蟻を観察し続けた結果、
左の二番目の足から歩き出すことを発見した守一。
クロアゲハに関しても、きっと長年観察し続けていたことでしょう。
さてさて、続く2階の展示室では、
藝大に入学する前の人体デッサンや、
どこか禅画にも通ずるような晩年の作品など、
貴重な作品の数々が一挙公開されています。
まさに、周年記念特別展に相応しいラインナップでした。
さらに、3階の展示室では、守一のアトリエが再現されています。
こちらに展示されているのは、すべて守一本人の愛用品。
このような形でまとめて公開されるのは、実に十数年ぶりの機会なのだそうです。
守一ファンなら是非抑えておきたい展覧会ですね。
最後に、今展の出展品の中で、
個人的に断トツで刺さった作品をご紹介いたしましょう。
それは、94歳頃の守一が書いた 『念ずれば花開く』 という書。
(注;大人の事情で作品の画像は掲載できません)
二女の榧さん曰く、「いかにも人に頼まれて書かされた感じがする」 とのこと。
実は、この書は新宿伊勢丹での展覧会に出展されたそうで、
のちに、その展覧会で使われたと思われる紙製の簡易パネルが見つかったそう。
そこには、『念ずれば花開く』 という 題名の下に、
「そんなことはあるわけない」 と一言添えられていたのだとか (笑)
人生は甘くないのですね。