早いもので、今年ももう4月。
それも中旬。
都内では桜がすっかり散ってしまい、
カキツバタの季節が、すぐそこまでやってきています。
このシーズンに合わせて、毎年根津美術館で開催されているのが、
尾形光琳による国宝 《燕子花図屏風》 をお披露目する展覧会です。
光琳の弟である乾山の作品と併せて、兄弟コラボで展示したり、
和歌をモチーフにした 《燕子花図屏風》 にちなみ、和歌モチーフの美術品と併せたり。
ただ単に、《燕子花図屏風》 をメインに展示するだけでなく、
毎年、さまざまな切り口で、《燕子花図屏風》 を紹介しています。
今年の展覧会のタイトルは、“燕子花図屏風の茶会”。
(注:展示室内の写真撮影は、特別に許可を得ております。)
昭和12年5月に開催された“伝説のGIG”・・・、
もとい、“伝説の茶会” にスポットを当てた展覧会です。
その伝説の茶会の亭主を務めたのは、
根津美術館のコレクションの礎を築いた初代根津嘉一郎 (当時76歳)。
初日の5月5日から約10日にわたって、
政財界の友人を5、6名ずつ招き、青山の自邸で開催しました。
その茶会の目玉の一つとして、
客人に披露されたのが、《燕子花図屏風》 だったそう。
国宝 尾形光琳 《燕子花図屏風》 6曲1双 紙本金地着色 日本・江戸時代 18世紀 根津美術館蔵
他にも、重要文化財に指定されている円山応挙の 《藤花図屏風》 や、
重要文化財 円山応挙 《藤花図屏風》 6曲1双 紙本金地着色 日本・江戸時代 安永5年(1776) 根津美術館蔵
鼠志野の名碗として名高い 《鼠志野茶碗 銘 山の端》 をはじめ、
重要文化財 《鼠志野茶碗 銘 山の端》 美濃 日本・桃山~江戸時代 17世紀 根津美術館蔵
初代根津嘉一郎が愛蔵する名品の数々が、
惜しみなく、客人たちに公開されたのだそうです。
本展は、そんな伝説の茶会を可能な限り再現したもの。
その茶会に使用された茶道具や美術品を、
可能な限り、判明している限り、一堂に会したものです。
それも、茶事の流れに沿って。
何より一番印象的だったのは、茶会で使用される茶道具が、
《燕子花図屏風》 から連想できるものが多く選ばれていたこと。
例えば、《燕子花開扇蒔絵螺鈿香合》 のように。
《燕子花開扇蒔絵螺鈿香合》 木胎漆塗 日本・江戸時代 17世紀 根津美術館蔵
ははーん、なるほど。
のちほど、《燕子花図屏風》 が披露されるので、
この燕子花モチーフの香合は、その前フリというわけですな。
客人は、そうピンと来る必要があるわけです。
仮に、ピンとこないとなると、
せっかくの亭主による伏線 (?) が無意味になってしまいます。
なお、この茶会では琳派繋がり、『伊勢物語』 繋がりで、
伝尾形光琳による 《業平蒔絵硯箱》 も披露されたのだとか。
伝 尾形光琳 《業平蒔絵硯箱》 木胎漆塗 日本・江戸時代 18世紀 根津美術館蔵
江戸時代に制作された貴重な蒔絵箱ではありますが。
“平安時代の超イケメン貴族” とされる在原業平がモチーフながら、
まったくモテなさそう、しかも、蛭子能収の漫画の人物に似ている気がします。
ちなみに。
昭和12年の茶会で使用された茶道具の中で、
個人的に一番印象に残っているのが、《染付水鳥文壺》。
《染付水鳥文壺》 景徳鎮窯 中国・明時代 17世紀 根津美術館蔵
・・・・・・水鳥なのか??
棒人間ならぬ棒鳥。
鳥というよりも、胞子のたぐいです。
それから、《金襴手酒次》 も印象深い逸品でした。
《金襴手酒次》 景徳鎮窯 中国・明時代 16世紀 根津美術館蔵
目に飛び込んできた瞬間に、
注ぎ口がアレに似てるなぁと思ってしまいました。
もちろん口にはしませんでしたが。
キャプションに目をやると、こんな記述が。
「初日の客・松永安左ェ門も “注ぎ口が乳くびの形で面白い” と日記に記している。」
男なんて考えることがみんな一緒です。
ちなみに。
展覧会では、こんなものも紹介されていました。
《銅鑼》 黄銅 東南アジア 17~18世紀 根津美術館蔵
雲州松平家伝来の天下一の銅鑼とのこと。
この銅鑼は、昭和12年の茶会の際に、
濃茶の準備が整った合図として用いられたそうです。
亭主である根津嘉一郎は、「大小大小中中大」 の7つの音を打ったのだとか。
『太鼓の達人』 みたいな打ち方もあるのですね。