現在、東京ステーションギャラリーで開催されているのは、
“牧歌礼讃/楽園憧憬 アンドレ・ボーシャン+藤田龍児” という展覧会。
アンドレ・ボーシャンと藤田龍児。
活躍した国も時代も違う2人の画家の展覧会です。
まず紹介されていたのは、藤田龍児 (1928~2002)。
京都に生まれ、大阪を中心に活動した画家です。
関東圏の美術館で大々的にフィーチャーされるのは、今展が初めて。
これまでに、不染鉄や吉村芳生、メスキータ、藤戸竹喜をはじめ、
知る人ぞ知る芸術家を発掘してきた東京ステーションギャラリーならではのチョイスです。
前半生では、池袋モンパルナスの画家の作品を彷彿させるような。
不穏でシュルレアリスム風の作品を描いていた藤田龍児。
(注:展示室内の写真撮影は、特別に許可を得ております。)
特にエノコログサ、いわゆる猫じゃらしを、
モチーフにした作品を多く描いていたそうです。
こういう作風が好きな方もいらっしゃるとは思いますが。
どちらかと言えば、好き嫌いがハッキリと別れるタイプの作風。
ぶっちゃけた話、僕はあまり好みではありませんでした。
なんか虫を連想してしまいましたし。
東京ステーションギャラリーでも、外すときはある。
そう思った次の瞬間です。
心を優しくキュッと掴まれる素敵な作品が目に飛び込んできました。
藤田龍児 《古い花》 1973年 個人蔵
・・・・・・・・えっ?
さっきまでの藤田龍児は??
あまりのキャラ変に戸惑いを隠せません。
一体、彼に何が起きたのでしょうか。
実は、48歳の時に脳血栓を発症したという藤田。
さらに、翌年に再発し、右半身不随となってしまいました。
利き腕が動かなくなったことで、画家活動を一度は断念するもの、
一念発起し、懸命なリハビリを経て、左手で描く訓練に打ち込みます。
そして、53歳の時に、不死鳥のごとく復活し、再起後初となる個展を開きました。
藤田龍児 《軍艦アパート》 1990年 大阪市立美術館蔵
藤田龍児 《老木は残った》 1985年 北川洋氏蔵
再起後、まさに画家として生まれ変わった藤田。
その作風はうって変わって、牧歌的で穏やか、
全体的に、どこかのんびりした空気が流れているかのようです。
ただし、利き腕で描いていない分、
絵としてのクオリティが下がったかと言えば、むしろその逆。
パッと見は、のどかな印象の作品ですが。
近づいてみると、その細かな描写に驚かされること請け合い!
レンガや草むら、葉脈など画面の至るところに、
ニードルで細かいスクラッチが施されているのです。
絵の具を塗ってすぐに、スクラッチを施すとなると、
このように細かい硬質な線にはならないのだそう。
かといって、絵の具が乾きすぎてしまうと、
周辺の絵の具全体が剥落してしまうのだそう。
絶妙なタイミングでスクラッチをしなければ、この表現は生まれないのだとか。
制作方法は、全然のどかじゃなかったのですね。
ちなみに。
後半生の藤田作品はどれも素敵でしたが、
個人的に一番お気に入りなのは、こちらの作品です。
藤田龍児 《デッカイ家》 1986年 星野画廊蔵
タイトルは、《デッカイ家》。
大きな家でも、巨大な家でもなく、デッカイ家。
そのネーミングセンスにやられました。
さてさて、藤田に次いで紹介されているのが、
素朴派を代表する画家アンドレ・ボーシャン (1873~1958)。
あのル・コルビジェがいち早く才能を見出した画家としても知られています。
もともとは、苗木職人として園芸業を営んでいたボーシャン。
事業は順調ではあったものの、第一次世界大戦が勃発し、徴兵されることに。
それが大きな要因となって、46歳の時に農園は破産。
妻は、その心労から精神に異常をきたすようになりました。
そんな境遇の中で、ボーシャンは独学で絵を描くようになるのです。
アンドレ・ボーシャン 《トゥールの大道薬売り》 1944年 個人蔵(ギャルリーためなが協力)
アンドレ・ボーシャン 《異国風の庭にいる人々》 1950年 個人蔵
戦時中、測地術 (=土地を測量する技術) を習得したというボーシャン。
それゆえでしょうか、人や建物、木々などを、
まるで正確に記録するかのように、きっちりみっちり描き込んでいます。
その “きっちりみっちり感 (?)” が、独特の味わいを生んでいました。
なお、最後の展示室ではじめて、
藤田とボーシャンの作品が並べて展示されています。
活躍した国も時代も違うのに、
どこか通ずるところのある2人。
作品から醸し出される雰囲気が似ているので、
どちらがボーシャンで、どちらが藤田なのか、パッと見わからないほど。
藤田がボーシャンで。ボーシャンが藤田で。
『君の名は』 状態でした。
ちなみに。
この展示室にあった藤田の 《神学部も冬休み》 を、
じーっと観ていたところ、ちょっと気になる部分を発見してしまいました。
それは、左の建物にある非常口。
扉の下に、階段が見当たりません。
この非常口から脱出しようとすると、
そのまま下に落下してしまう危険性があります、
まさに非常口。
┃会期:2022年4月16日(土)~7月10日(日)
┃会場:東京ステーションギャラリー
┃https://www.ejrcf.or.jp/gallery/exhibition/202204_andre_fujita.html