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Channel: アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】
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カラーフィールド 色の海を泳ぐ

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DIC川村記念美術館で開催中の話題の展覧会、

“カラーフィールド 色の海を泳ぐ”に行ってきました。

 

(注:展示室内の写真撮影は、特別に許可を得ております。

  なお、キューピーマヨネーズのパッケージっぽいのは、アンソニー・カロの《赤いしぶき》という作品です)

 

 

カラーフィールドとは、批評家のクレメント・グリーンバーグによって提唱された、

1950年代後半から60年代にかけてアメリカを中心に発展した抽象絵画の潮流のこと。

マーク・ロスコやバーネット・ニューマンが、その代表的な作家です。

彼らは、大きなカンヴァス一面に色彩(=カラー)を用いることで、

観客を包み込むような場(=フィールド)を出現させようとしました。

 

そんなカラーフィールドの作家たちの質の高いコレクションとして、

世界的に知られているのが、カナダのデイヴィッド・マーヴィッシュ・ギャラリーのコレクション。

通称、マーヴィッシュ・コレクション。

その中から厳選に厳選を重ねた9名の作家40点の作品が初来日しています。

さらに、DIC川村記念美術館の所蔵品も併せた47点の作品が一堂に会していました。

 

 

 

フィールドを作ろうとした絵画(たまに彫刻)だけに、

どの作品も大きく、モノによっては横5mを超える大作も!

よくぞこの時期に、これだけの大作群を海外から運んでこられたものです。

そのことだけでも充分に素晴らしかったですが、

さらに素晴らしかったのが、出展作品のセレクション。

戦後の現代彫刻を代表するアンソニー・カロや、

DIC川村記念美術館にもなじみの深いフランク・ステラといった、

 

 

 

20世紀のアートの巨匠ともいうべき、

作家の作品ももちろんチョイスされていましたが。

カナダを代表する抽象画家ジャック・ブッシュや、

 

 

 

ベルリン生まれでアメリカで活躍したフリーデル・ズーバス、

 

 

 

ニューマンの個展を見たことで、音楽の道から転向したラリー・プーンズなど、

 

ラリー・プーンズ《雨のレース》 1972年 アクリル、カンヴァス 262.9 × 395cm オードリー&デイヴィッド・マーヴィッシュ蔵
© Larry Poons / VAGA at ARS, NY / JASPAR, Tokyo 2022 G2749

 

 

日本ではあまり知られていない作家も、積極的に取り上げられていました。

担当学芸員さん曰く、作品の質を重視して、出品作をセレクトしたとのこと。

ポテンシャルの高い作品ばかりで構成されているだけに、

展覧会の会場全体が、とてつもないフィールドと化していました。

星星

 

 

なお、今展でもっともフィーチャーされていたのが、

ロシア生まれでアメリカで活躍したジュールズ・オリツキーです。

1969年にメトロポリタン美術館で彼の個展が開催されていますが、

これは、存命中の画家の個展としては、メトロポリタン美術館史上初だったそう。

その頃のオリツキーが制作していたのは、こういった画風の抽象画↓

 

ジュールズ・オリツキー《高み》 1966年 オードリー&デイヴィッド・マーヴィッシュ
©︎ Jules Olitski / VAGA at ARS, NY / JASPAR, Tokyo 2022 G2749

 

 

まるで霞や霧が漂っているような淡い色合いが特徴的です。

実は、これらの色面を生み出しているのは、工業用のスプレーガン。

スプレーガンを使ったアートというと、

街中のグラフィティがパッと頭に浮かんでしまいましたが。

こんな繊細な作品を作ることも出来るのですね。

 

そうそう、特徴的な技法と言えば、

モーリス・ルイスが得意としたステイニングも抑えておきたいところ。

村上春樹の『色彩を持たない多崎つくると彼の巡礼の年』、

その表紙にも、ルイスのステイニングの絵が採用されています。

 

モーリス・ルイス《無題(イタリアン・ヴェール)》 1960年 マグナ(アクリル)、カンヴァス 190.5 × 254cm
オードリー&デイヴィッド・マーヴィッシュ蔵

 

 

ステイニングは、下地の処理が施されていないカンヴァスに、

絵の具をステインさせる、つまり滲み込ませる技法のことです。

ルイスの代名詞ともいうべき技法ゆえ、

てっきり彼が発明したものなのだとばかり思い込んでいましたが。

どうやら今展唯一の女性作家ヘレン・フランケンサーラーが生み出したものとのこと。

しかも、20代前半の彼女がやっていたのを、

当時50代だったルイスが目にして、自分でもやってみるようになったとのこと。

色彩を持たない多崎つくるに対し、

プライドを持たないモーリス・ルイス、でした(いい意味で)。

 

ちなみに、展覧会のラストでは、

出展作家9名のそれぞれの代表的な言葉が紹介されていました。

ルイスの言葉として引用されていたのは、

使用している絵の具メーカーに対して送ったこちらの言葉。

 

 

 

 再三、苦情を言うのは気が引けますが[・・・]、

 絵具の色は出来たてのようにそれぞれ仕上げるよう確認してもらえないでしょうか?[・・・]

 もう一点重要なことで以前から不満だったのが、別の色を製造するときに、

 機械がほぼ掃除されていないのではないかということです。

 

 

モンスタークレーマーやないかい!

それだけ絵の具に並々ならぬこだわりを持っていたということなのでしょうが。

初めてではなく、再三の苦情というところに、

狂気がステイニングして(滲み込んで)いました。





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