2022年もっとも注目を集めている現代アート展。
そう言っても過言ではない“ゲルハルト・リヒター展”に行ってきました。
ドイツ・ドレスデン出身で、
「ドイツ最高峰の画家」と称されるのゲルハルト・リヒター。御年90歳。
その日本では16年ぶり、
東京では初となる美術館での大規模展覧会です。
出展作品は、実に122点!
ゲルハルト・リヒター財団のコレクションと、
リヒター本人が手元に大切に置いておいた秘蔵の作品などで構成されています。
どの作品もリヒターの画業にとって重要なピースばかりですが、
それらの中でも特に今展の目玉ともいえるのが、4点の絵画からなる《ビルケナウ》。
もちろん、日本初公開となる作品です。
ゲルハルト・リヒター《ビルケナウ》 2014年 ゲルハルト・リヒター財団蔵
一見すると、ただの抽象画(?)のように思えますが。
アウシュヴィッツ・ビルケナウ強制収容所で、囚人が隠し撮りした写真を、
キャンバスに描き写し、その上に黒や白、赤、緑の絵の具を塗り重ねた作品です。
なお、展示空間内にはその元となった写真と、《グレイの鏡》という鏡の作品と、
そして、《ビルケナウ》の対面には、
まったく同じ大きさで複製された4点の写真が設置されています。
ゲルハルト・リヒター《ビルケナウ(写真ヴァージョン)》 2015~2019年 ゲルハルト・リヒター財団蔵
このように配置されることにより、それぞれの作品が複雑に絡み合って、
まるで伏線が張り巡らされた演劇、映画を1本観ているかのような印象を受けました。
『コンフィデンスマンJP』のオープニング風に言うならば(?)・・・・・
目に見えるものが真実とは限らない。
抽象画の下に、本当に写真が描き写されているのか。
鏡に映った《ビルケナウ》は、何を表しているのか。
写真で複製されたものと、絵画に違いはあるのか。
ゲルハルト・リヒターの世界へようこそ。
といった感じでしょうか。
また、こちらも見逃せないのが、リヒターが1970年代から、
40年以上にわたって描き続けてきた《アブストラクト・ペインティング》シリーズです。
左)ゲルハルト・リヒター《アブストラクト・ペインティング》 2017年 ゲルハルト・リヒター財団蔵
右)ゲルハルト・リヒター《アブストラクト・ペインティング》 2016年 作家蔵
それらの中でとりわけ注目すべきは、
2017年に描かれた《アブストラクト・ペインティング》。
ゲルハルト・リヒター《アブストラクト・ペインティング(CR: 952-2)》 2017年 ゲルハルト・リヒター財団蔵 油彩、キャンバス 200×200cm
どうやら彼はこの年に、すべてを出し切ったようで、
制作後に、「もう絵は描かない」と絶筆宣言をしたそうです。
以来、本当に《アブストラクト・ペインティング》は発表されていません。
つまり、これが現状、最後の《アブストラクト・ペインティング》です。
ただし、「もう絵なんて描かないなんて言わないよ絶対」と言ったとか言わないとか、
ここ最近は、リヒターは紙にグラファイトで描くドローイングの作品を描いているそうで。
展覧会の締めくくりでは、
それらの絵の数々が紹介されていました。
90歳を迎えた今なお現役。
まさに“アート界の生きるレジェンド”です。
哲学的でもあり、詩的でもあるリヒターの抽象画。
ゲルハルト・リヒター《ヨシュア》 2016年 ゲルハルト・リヒター財団蔵
左)ゲルハルト・リヒター《アブストラクト・ペインティング》 2000年 右)ゲルハルト・リヒター《グレイ》 1973年 いずれもゲルハルト・リヒター財団蔵
作品が一体何を伝えようとしているのか、
向かい合って、じっくり考えてみるも良し。
逆に、頭を空っぽにして、純粋に美しさを愛でるも良し。
楽しみ方は、人それぞれでしょう。
それでも、“抽象画はよくわからなくて、苦手で・・・。”という方もご安心を。
リヒターは写真のブレを意図的に描き写した、
「フォト・ペインティング」というシリーズも手掛けています。
ゲルハルト・リヒター《頭蓋骨(CR: 548-1)》 1983年 ゲルハルト・リヒター財団蔵 油彩、キャンバス 55×50cm © Gerhard Richte
左)ゲルハルト・リヒター《トルソ》 1997年 右)ゲルハルト・リヒター《水浴物(小)》 1994年 いずれも作家蔵
個人的には、それらに混じって展示されていた、
風景画と抽象画のちょうど中間のような《ユースト(スケッチ)》がお気に入り。
ゲルハルト・リヒター《ユースト’スケッチ)》 2005年 作家蔵
作品に込められた思想や作家としての姿勢が深遠すぎて、
良くも悪くも、リヒター自身に、あまり人間味を感じないのですが。
この作品には、リヒターの心象風景が、
そっくりそのまま描き出されているかのような印象を受けました。
初めて彼の人間らしい一面が垣間見えた気がします(←?)。
ゲルハルト・リヒター《8枚のガラス》 2012年 ワコウ・アート・ワークス蔵
作品単体もさることながら、
作品と作品の関係性も、思わず考察したくなる。
そんな展覧会でした。
この記事を書いている今もなお、
リヒターの作品について、いろいろ考えている自分がいます。
家に帰るまでが、いや、家に帰ってもゲルハルト・リヒター展です。
すべて© Gerhard Richter 2022 (07062022)
┃会期:2022年6月7日(火)~10月2日(日)
┃会場:東京国立近代美術館