現在、ミュゼ浜口陽三・ヤマサコレクションでは、
“色彩への招待”という展覧会が開催されています。
(注:展示室内の写真撮影は、特別に許可を得ております。)
20世紀を代表する国際的な銅版画家、浜口陽三。
カラーメゾチントという独自の技法を開発したことから、
エンサイクロペディア・ブリタニカにその名が掲載されているスゴい日本人です。
と、そもそも「メゾチント」とは何か?
一見すると、ただのモノクロの版画、
木版で摺ったモノクロの版画とそう大差は感じられないかもしれません。
しかし、実は木版以上に、途方もない時間と労力のかかる技法なのです。
その行程を簡単に説明いたしましょう。
表面がツルツルした銅版の表面には、当然
そこで、ベルソーという櫛のような刃がついた器具で傷を刻み入れていきます。
傷つけられた部分には、インクが溜まりますよね。
つまり、銅板全体にびっしりと、
インクが溜まる小さな点を無数に作ることで黒地が完成します。
それが出来てから、ようやく図案に着手。
今度は、せっかく付けた表面の傷を、
金属のヘラやコテを使って潰して(=平らにして)いき
潰したところは、インクが溜まらないので、
浜口陽三が開発したカラーメゾチントとは、そのカラー版。
想像するだけでも、気の遠くなるような作業です。
浜口陽三《1/4のレモン》 1976年 カラーメゾチント 15.5×15.3㎝
浜口陽三《17のさくらんぼ》 1968年 カラーメゾチント 24.5×51.7㎝
さてさて、今回の浜口陽三展では、
改めて、そのカラーメゾチントの技法に着目。
色の重なりや奥行きを堪能できる内容となっています。
例えば、《青いガラス》という作品。
青く透明感のあるガラスの器の中に、
浜口陽三の代名詞ともいうべき、さくらんぼが入っています。
展覧会では、この作品のもととなる実際の銅板も併せて紹介。
カラーメゾチントの作品なので、
もちろん4色(版)分作られています。
それぞれの版に、4色のインクを詰めて、
それを摺り重ねることで、《青いガラス》は完成。
・・・・・という理屈は、なんとなく頭で理解できますが。
ただ、どうしてこの4版を重ねるだけで、
あれほどの繊細な色合いが生まれるのか。
考えれば考えるほど、わからなくなりました。
まるで魔法を見せつけられているかのようです。
魔法のようと言えば、今展では、
同じ版を使った色違いver.が併せて紹介されていました。
同じモチーフ、同じ版であっても、
色が違うだけで、こんなにも印象がガラッと変わるとは!
改めて、カラーメゾチント作品にとって、
色がどれほど重要な要素なのかを実感することができました。
なお、数ペアある色違いの中で、
特に印象的だったのが、《突堤》です。
左は4版を重ねた完全ver、そして、右は黒版なしのver。
完全ver.がどちらかといえば朝焼けの印象であるのに対し、
黒版なしver.は、完全に夕焼けに染まる海辺の光景でした。
浜口陽三《突堤(黒版なし)》 ca.1965 カラーメゾチント 28.3×28.6㎝
目に飛び込んできた瞬間、
脳内で昔の『金曜ロードショー』のOP曲が再生されました。
ちなみに。
“色彩への招待”と題されたこの展覧会は、
入館した方にもれなく、「色の招待状」が渡されます。
その招待状の中に入っていたのが、こちらの不思議な用紙(何種類かあるそうです)。
実は、この紙に描かれているのは、
会場の一角に展示された作品のうちの一部とのこと。
一体どの作品のどの部分なのか。
よーく目を凝らして探す必要があります。
答えがわかったら、スペース中央の引き出しを開けて答え合わせ。
アートテラーのメンツにかけて(?)、
なんとか正解することはできましたが、トラウマレベルの難易度でした。
こちらの美術館には何度も訪れていますが、
こんなにも浜口陽三作品を凝視したのは、おそらく今回が初めてです。
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