昨年11月に、丸紅株式会社の新社屋の3階に新設された美術館。
それが、丸紅ギャラリー。
その開館記念展第1弾として、今年の1月31日まで、
開催されていたのは、“日仏近代絵画の響き合い”という展覧会です。
そこから少し間が空いてしまいましたが、
6月7日より、開館記念展第2弾がスタートしました。
その名も、“『美』の追求と継承-丸紅コレクションのきもの”。
(注:館内は撮影禁止のため、事前の承諾を得て撮影しております。転載・転用は固くお断りいたします。)
丸紅の前身である丸紅商店は、大正末期から昭和初期にかけ、
着物の新しいデザインを模索するべく、「名品会」なるものを組成して、
時代に左右されない普遍の美である古い時代の染織品の研究を行っていました。
その際に蒐集された染織品コレクション約400点が、
丸紅コレクションの3本柱の一つとして、現在まで大切に受け継がれています。
その中から選りすぐられた名品、前後期合わせて44点を紹介するのが今回の展覧会。
審美眼のある人間によって蒐集されただけあって、
展示品はどれも、時代を代表する素晴らしい着物ばかりです。
ただ単純に、見た目が豪華というだけでなく、
鹿の子絞りや刺繍といった職人技の巧みさや、
余白の美を意識したデザインセンスなど、見どころがたくさん詰まっていました。
数ある丸紅コレクションの中でも特に重要な着物が、
江戸時代18世紀後半の《納戸紋縮緬地淀の曳舟模様小袖》です。
モチーフとなっているのは、淀川の三十石船。
船頭や乗客たちも描かれており、
その表情は実に生き生きとしています。
まるで浮世絵のようだと思ったら、
なんでも下絵は勝川春章によるものと伝えられているそう。
本当に、当時の人気浮世絵師がデザインした可能性が高いのですね。
ちなみに、丸紅創業者である初代伊藤忠兵衛も、
近江の麻布を出張卸販売した際には、三十石船を利用していたとのこと。
そんな縁もあって、この小袖に描かれた船が、
丸紅ギャラリーのロゴデザインに採用されているそうです。
さてさて、ここからは、それ以外で、
印象的だった着物をいくつかご紹介いたしましょう。
まずは、こちらの《染分縮緬地重陽模様着物》から。
五節句の一つである重陽の節句をモチーフとなっている着物です。
よく見ると、同じ姿かたちをした女性が一定の間隔で登場しています。
現代であれば、こういうようなプリント生地があるでしょうが、
もちろん、昔はそもそもプリント生地自体が存在していません。
これらの絵柄はすべて、型紙を用いた友禅染(型友禅染)の技法で描かれているのだそう。
その作業を想像するだけで、苦労がしのばれます。
苦労がしのばれるといえば、こちらの《黒縮緬地叢雲模様着物》も。
名前に叢雲模様とあるだけに、
裾の部分に暈し染めで叢雲のような模様が表現されています。
それ以外の部分は、パッと見、ただのグレー一色に思えますが。
近づいてよくよく観てみると・・・・・・
全面にビッシリと小紋で染め上げられていました!
全体を埋め尽くす点々とうねうねした線。
どことなく草間彌生さんの作品を彷彿とさせるものがありました。
また、ある意味、苦労がしのばれそうな着物が、
こちらの《鶸色(ひわいろ)縮緬地謡曲模様小袖》です。
全体的に表現されているのは、架空の風景とのこと。
その中に、『羽衣』や『芦刈』、『平家物語』など、
様々な謡曲や物語にちなんだモチーフが、連想ゲームのように配置されているのだとか。
そういった古典の知識を持っていなければ、
一体何が表されているのか理解することができません。
この着物の持ち主の女性は、この着物を着ては、
周囲の人間の知性を試していたのでしょう、たぶん。
そして、マウントを取っていたのでしょう。絶対。