この夏、すみだ北斎美術館では、
“北斎 百鬼見参”という展覧会が開催されています。
(注:展示室内の写真撮影は、特別に許可を得ております。)
展覧会のテーマは、ずばり「鬼」。
葛飾北斎が描いた浮世絵や版本を中心に、
浮世絵や版本に描かれた鬼たちが紹介するものです。
『鬼滅の刃』や『約束のネバーランド』など、
鬼が登場する漫画は、ここ近年増えている気はしますが。
果たして、江戸時代にそんなに鬼が描かれていたのでしょうか?
展覧会として成立しないのでは??
ところが、そんな心配は杞憂に終わりました。
渡る展示室は鬼ばかり。
現代以上に、江戸時代は鬼が多く描かれていたようです。
一口に鬼と言っても、その種類は実にさまざま。
これぞ鬼というようなパブリックイメージの姿をした鬼もいれば、
葛飾北斎『釈迦御一代記図会』三 八面九足の霊鬼悉達太子を試して四句の偈を授る図 すみだ北斎美術館蔵(通期)
酒吞童子のように伝説や物語の登場する有名な鬼、
葛飾北斎『絵本和漢誉』 大江山の鬼族酒顚童子を退治す 源の頼光朝臣 すみだ北斎美術館蔵(通期)
藤原広嗣や菅原道真など、鬼になったと伝わる歴史上の人物などもいました。
葛飾北斎『絵本魁』初編 藤原広嗣の霊霊 玄暴僧正 すみだ北斎美術館蔵(通期)
日本にはこんなにもたくさんの鬼がいたのですね。
ちなみに、展覧会では、鬼瓦のある光景のように、
まぁ鬼っちゃ鬼が描かれたものも紹介されていました。
葛飾北斎『北斎漫画』五編(明治版) 寺門ノ一 すみだ北斎美術館蔵(通期)
それらを鬼の絵に含めるのは、さすがに無理があるだろ!
・・・・・・とツッコむほど、僕も鬼ではありません(笑)
そういうものも含めて、いかに鬼が、
日本人に馴染み深い存在であったかを実感させられました。
ただ怖いだけじゃない鬼アツな展覧会です。
さて、前後期合わせて約145点の作品が出展されていますが、
その中で特に見逃せないのは、やはり北斎の肉筆画《道成寺図》でしょう。
葛飾北斎《道成寺図》 すみだ北斎美術館蔵 (前期) ※後期は高精細複製画を展示
鬼のような表情を浮かべた女性が、
髪を振り乱しながら、右手に何かを持っています。
パッと見、いつぞやのワイドショーを騒がせた、
「引っ越し、引っ越し!」と叫ぶあのおばさんのようですが、
こちらは、安珍・清姫伝説をもとにした能『道成寺』の一場面を描いた作品です。
実は、能をテーマに描いた北斎の肉筆画は、
意外にも、、この《道成寺図》の他に例が無いのだとか。
それだけでも充分に貴重な肉筆画ですが、
なんと、今展に合わせて修復が行われたそう。
つまり、今回が初公開となる貴重な作品です。
また、貴重な肉筆画といえば、
佐野美術館が所蔵する《着衣鬼図》も。
葛飾北斎《着衣鬼図》 佐野美術館蔵(前期)
北斎が数えで89歳のとき。
晩年に描かれた貴重な肉筆画の一点です。
描かれているのは、僧衣を着た赤鬼。
その目の前には、向かって左から、数珠と、
煩悩を暗示する徳利(酒)と刺身の皿(生臭もの)が並んでいます。
どちらかを口にしてしまうのか、はたまた数珠を手にして我慢するのか。
しばらく、じっとこの肉筆画を眺めていたら、
鬼へのドッキリをモニタリングしているかのような気分になってきました。
さて、ここからは個人的に印象に残った作品をいくつかご紹介いたしましょう。
まずは、北斎の『近世怪談 霜夜星』から。
葛飾北斎『近世怪談 霜夜星』一 高西伊兵衛 於沢冤鬼 すみだ北斎美術館蔵(通期)
描かれているのは、お沢という女性が死後に怨霊となり、夫に襲いかかる場面です。
画面には『於澤冤鬼』とありますが、
冤鬼とは「恨めしい鬼」の意味とのこと。
元々中国では『鬼』という漢字は、
死霊の意味でも用いられていたそうで、
この挿絵でもその意味で使われていることがわかります。
それはそうと、冤鬼と化したお沢の攻撃にご注目。
口から大量のネズミを噴き出して、夫を襲わせています。
今週のビックリドッキリメカ的な攻撃方法です。
続いては蹄斎北馬による《角大師と蝸牛図》。
蹄斎北馬《角大師と蝸牛図》 すみだ北斎美術館蔵(前期)
このデビルマンみたいな謎のクリーチャーは、角大師というのだとか。
その正体は、なんと天台宗の中興の祖・良源という僧侶なのだそうです。
ある日、良源に疫病神が憑りつきました。
しかし、法力で疫病を退散させます。
体調が回復したあと、弟子を集めた良源は、
民が疫病に苦しむことがないよう、一心に念じました。
すると、2本角の痩せた鬼の姿となったとのこと。
そして、その姿を弟子に写させ護符にし、民衆に配らせたのだそうです。
そんな角大師がモチーフとなっていますが、
蹄斎北馬が描いたそれはカタツムリとほぼ同じサイズ。
TOTOのCMに出てくるビッグベンみたいな感じです。
最後に紹介したいのは、北斎の《豆まきをする金太郎》。
葛飾北斎《豆まきをする金太郎》 すみだ北斎美術館蔵(前期)
豆まきって、目に見えない鬼に対してするものだと思っていました。
金太郎がいた頃は、本当に鬼に豆をぶつけていたのですね。
ゴキブリ退治ならぬ、鬼退治。
キンチョールみたいなものでしょうか。