2020年4月に開催される予定だったものの、
残念ながら、新型コロナの影響で中止となってしまったあの展覧会、
“ボストン美術館展 芸術×力(げいじゅつとちから)”が、2年越しに開幕いたしました!
(注:展示室内の写真撮影は、特別に許可を得ております。)
来日する作品のラインナップは、
2年前に開催予定だったものと、ほぼ一緒だそう。
ただ、2年前と違うのは、3会場での巡回展でなく、
東京都美術館の1会場だけの開催となってしまったこと。
このボストン美術館展が観れるのは東京都美術館だけ。
どうぞお見逃しなきように!
さて、ボストン市民の有志により、
1876年に開館したボストン美術館。
そのコレクション数は、約50万点と驚異的な数を誇ります。
それだけの作品数があれば、
貸出を多くしても痛くも痒くもないのでしょう (←?)。
それゆえ、ボストン美術館のコレクションを紹介する展覧会は、
僕が知っているだけでも、日本で過去に何度も開催されてきました。
そんなこれまでのボストン美術館展と、
一線を画するのが、今回のボストン美術館展。
テーマはズバリ、「芸術と力」。
今やそれらのコレクションは、ボストン市民のため、
それを愛でる全世界の人々のための芸術でもありますが、
実は多くの芸術は、もともとは権力者のためのものでした。
威厳に満ちた肖像画は、その権力を強めるため、
右)ロベール・ルフェーヴルと工房《戴冠式の正装をしたナポレオン1世の肖像》 1812年
美しい工芸品は宮廷を華やかにするため、
また、外交の場で贈答されるためのものであったのです。
アブラハム・ゲスナーに帰属《地球儀型の杯》 スイス、1580-90年頃
これまでありそうでなかった、権力にフォーカスした展覧会。
『半沢直樹』や『梨泰院クラス』など、
権力をテーマにしたドラマが人気を博す昨今に、
ある意味、ピッタリの展覧会といえましょう。
ちなみに。
古代エジプトで王そのものを表していたという《ホルス神のレリーフ》や、
《ホルス神のレリーフ》 エジプト(エル・リシュト、センウセレト1世埋葬殿出土)、
中王国、第12王朝、センウセレト1世治世期、紀元前1971-1926年頃
平安時代の貴族たちの美意識を取り入れた《大日如来坐像》など、
古今東西の権力者と関わりの深い美術品が多数展示されています。
それらの中には、世界でもっとも裕福な女性の一人と言われた、
マージョリー・メリウェザー・ポストが所蔵していたエメラルドのブローチも。
オスカー・ハイマン社、マーカス社のために製作《マージョリー・メリウェザー・ポストのブローチ》 アメリカ、1929年
William Francis Warden Fund, Marshall H. Gould Fund, Frank B. Bemis Fund, Mary S. and Edward Jackson Holmes Fund, John H. and Ernestine A. Payne Fund, Otis Norcross Fund, Helen and Alice Colburn Fund, William E. Nickerson Fund, Arthur Tracy Cabot Fund, Edwin E. Jack Fund, Frederick Brown Fund, Elizabeth Marie Paramino Fund in memory of John F. Paramino, Boston Sculptor, Morris and Louise Rosenthal Fund, Harriet Otis Cruft Fund, H.E. Bolles Fund, Seth K. Sweetser Fund, Helen B. Sweeney Fund, Ernest Kahn Fund, Arthur Mason Knapp Fund, John Wheelock Elliot and John Morse Elliot Fund, Susan Cornelia Warren Fund, Mary L. Smith Fund, Samuel Putnam Avery Fund, Alice M. Bartlett Fund, Benjamin Pierce Cheney Donation, Frank M. and Mary T.B. Ferrin Fund, and Joyce Arnold Rusoff Fund
Reproduced with permission.
Photograph@Museum of Fine Arts, Boston,
中央のエメラルドは、なんと60カラット!
表面に彫られたアイリスの紋様は、
17世紀にインドで施されたものだそうです。
相当価値のあるものだということは、重々承知しているのですが。
これまでほぼ宝石とは無縁に生きてきたので、
どう見ても、駄菓子屋で売ってる宝石のおもちゃにしか思えませんでした。。。
視覚が貧乏で申し訳ありません。
ちなみに、数ある出展作の中で、
「これぞ権力!」ともっとも思わされた作品が、こちら↓
ジャン=レオン・ジェローム《灰色の枢機卿》 1873年
ジャン=レオン・ジェロームによる《灰色の枢機卿》です。
「灰色の枢機卿」とは、日本で言う「黒幕」という言葉に当たるそう。
その言葉の由来となっているのが、
画面右に描かれた人物、フランソワ・ルクレール・デュ・トランブレーです。
彼のご機嫌を取るべく、取り巻きたちが恭しくお辞儀をしています。
がしかし、枢機卿にとって、彼らはアウトオブ眼中。
手元の本に集中しています。
権力を握ると、人はこんな行動を取れるようになるのですね。
権力者といえば、こんな作品も。
増山雪斎 《孔雀図》 江戸時代、享和元年(1801)
Museum of Fine Arts, Boston, Fenollosa-Weld Collection
All photographs © Museum of Fine Arts, Boston
作者は増山雪斎。
伊勢長島藩の五代藩主を務めた、マジの権力者です。
権力者が描いた絵が下手くそだと、周囲の人間も、
気を遣って「殿、上手いでござる」とか言わないといけなかったでしょうが。
この増山雪斎に関しては、そんな気遣いは一切不要。
普通にお上手でした。
なお、こちらの作品は、今回が初里帰り。
しかも、この初里帰りのために修復されたそう。
日本人なら必見の作品です。
そして、それと同じくらいに、
日本人必見なのが、ボストン美術館が誇る二大絵巻。
《平治物語絵巻 三条殿夜討巻》と《吉備大臣入唐絵巻》。
どちらも、「日本にあれば国宝」とも言われる逸品です。
特に個人的にオススメなのは、《吉備大臣入唐絵巻》のほう。
会場では、コの字型にして全巻展示されています。
《吉備大臣入唐絵巻》は、唐に渡った吉備真備を主人公にした絵巻です。
なぜか、唐で幽閉の憂き目にあう吉備真備。
そして、そんな彼に唐人から次々と試練が与えられます。
それらのピンチを鬼となった阿倍仲麻呂とともに乗り越える、というお話。
面白いシーンはたくさんありますが、その一部をご紹介いたしましょう。
まずは、吉備真備が幽閉された楼閣を。
《吉備大臣入唐絵巻》(部分) 平安時代後期‐鎌倉時代初期 12世紀末
階段が急にもほどがあります。
階段というか、ほぼ壁。
確かにこれでは容易に抜け出すのは不可能ですね。
・・・・・・ん、でも、逆にどうやって、
この楼閣に閉じ込めることができたのでしょう??
唐人たちは、吉備真備に恥をかかすべく、
難読書である『文選』の試験を課すことにしました。
そこで吉備は仲麻呂とともに、
飛行の術で楼閣を抜け出すことに。
《吉備大臣入唐絵巻》(部分) 平安時代後期‐鎌倉時代初期 12世紀末
いや、抜け出せるんかい!
だったら、なぜずっと幽閉されてたんだよ!
それと、その正座スタイルの飛び方は何なんだよ!!
ツッコミどころ満載です。
なお、彼らが飛行して向かった先は、宮殿。
《吉備大臣入唐絵巻》(部分) 平安時代後期‐鎌倉時代初期 12世紀末
そこで出題される試験の問題を、
彼らはこっそり盗み聞きしたのでした。
・・・・・・そこは、なんか術を使わんのかい!
極めつけのツッコミどころは、こちらの場面です。
《吉備大臣入唐絵巻》(部分) 平安時代後期‐鎌倉時代初期 12世紀末
囲碁名人と勝負をするハメになった吉備真備。
しかし、彼は、囲碁のルールをまったく知りません。
そんな絶体的に不利な状態の中、奮戦するものの、
劣勢となった真備は、とっさに相手の碁石を一つ食べてしまいます(←何してんだよ!)
碁石が無くなったことを不審に思う唐人たちは、
「お前、食べただろ!」と、真備に詰め寄ります。
「いや。食べてないです」
「嘘つけ」
「本当です」
「じゃあ、下剤を飲んで、腹の中のものを全部出せ」
「・・・・・。」
この絶体絶命のピンチを仲麻呂が超能力で救います。
唐人たちは吉備真備のう○こを徹底的に調べますが・・・・・
《吉備大臣入唐絵巻》(部分) 平安時代後期‐鎌倉時代初期 12世紀末
「う~ん。確かに、う○この中にも、碁石は無いなぁ」
「無いねぇ」
それもそのはず。
阿倍仲麻呂の超能力により、碁石は、
なんと真備のお腹の中に留まっていたのです。
・・・・・いや、超能力あるなら、
碁石とか唐人の記憶を消せよ!!