今年開館15周年を迎える国立新美術館。
それを記念して、現在開催されているのが、
“国立新美術館開館15周年記念 李禹煥”という展覧会。
「もの派」を代表する作家、李禹煥(リ・ウファン)さんの、
国内では17年ぶり、都内では初となる大規模回顧展です。
(注:展示室内の写真撮影は、特別に許可を得ております。)
展覧会は大きく分けて、2つのセクションで構成されています。
前半でフィーチャーされているのは、立体作品の数々。
1968年頃から制作されている李さんの代表的シリーズ《関係項》が紹介されています。
《関係項》は、木や石、鉄といった素材(=もの)を、
あえてほとんど手を加えない形で並列させるシリーズ。
「もの」そのものを作品として見せるから、もの派というわけです。
パッと見は、ただ石が置かれているだけなので、
もし、さまぁ~ずの三村さんがこの光景に出逢ったならば、
きっと反射的に、こういう風にツッコんでしまうことでしょう。
石かよ!!
で、こちらの作品を観たなら、こんな風にツッコんでしまうはず。
座布団の上に石、置いちゃったよ!!
さらに、こちらの作品を観たなら、
このようにツッコんでしまうはずです。
ガラスの上に石、置くなよ!!
ガラス、割れちゃったよ!!
さて、こういった感想を抱くのは、
あながち間違ってはいないでしょう。
むしろ正解に近いかもしれません。
石と壁。石と床。
石と座布団。石とガラス…etc
“もの”を配置することで、
“もの”と“もの”の関係性を問うのが、
《関係項》シリーズのポイントなのです。
なお、ここ近年は、《関係項》シリーズは、
パワーアップ(?)しており、よりインスタレーション作品化しています。
例えば、2017年にフランスのとある修道院で発表された《関係項―棲処(B)》。
床一面に、石の板が敷き詰められています。
石の板と石の板の間は、やや隙間が空いているので、
上を歩くたびにガタガタして、軽く不安な気持ちになりました。
もし女性の方がヒールで訪れたなら、
隙間にヒールが挟まってしまい、大変なことになるかも。
ついつい石の板とヒールの関係性についても想像を巡らせてしまいました。
また、こちらは、昨年発表されたばかりの《関係項─プラスチックボックス》。
床にはアクリル板が敷きかれており、
その下には、なんと土が敷き詰められていました。
また、円筒形の透明な容器にそれぞれ、水と土、空気が入っています。
李さん曰く、地球の構成要素とのこと。
これが地球を表す光景だと思うと、若干のディストピア感があります。
ちなみに。
美術館の野外展示場には、
最新作が展示されていました。
ヘッドホンのように見えましたが、《関係項―アーチ》とのこと。
このアーチは、通り抜けることも可能となっています。
なお、地面には砂利が敷き詰められていましたが、
出入口はドアを開け閉めする関係で砂利を敷き詰められなかったのでしょう。
砂利がプリントされたものが置かれていました。
素材そのものにこだわる作品だけに、
この「なんちゃって砂利」に関しては、若干醒めてしまいました(笑)
逆に言えば、これが気になってしまうということは、
それだけ素材に対する感度が上がったということなのでしょう。
さてさて、展覧会の後半では、
李さんの絵画作品がフィーチャーされています。
初期の《点より》、《線より》シリーズから、
近年手掛けている《対話》シリーズまで。
代表的な絵画シリーズの数々が紹介されていました。
シンプルで、一見すると誰にでも描けそうな作品なのに、
この配置しかないと思わせる絶対的な説得力があります。
間(ま)が完璧で絶妙すぎるので、
観ているだけで、心地良さすら感じました。
展覧会のラストでは、《対話》シリーズの最新作、
《対話─ウォールペインティング》が発表されています。
壁そのものに直接、筆でストロークが描かれていました。
ただそれだけ。
ただそれだけのはずなのに、この空間全体が、
不思議と哲学性、深遠性を帯びているようでした。
ここで座禅を組めば、瞑想できそうな気配さえありました。
全体的にシンプルな作品ばかりなので、
濃い味が好きな人には、やや物足りないかもしれません。
しかし、濃い味のアート作品ばかり観ていると、
耐性が出来てしまって、感動が薄れてしまいがちです。
そういう時にこそ、李禹煥さんの作品を。
滋味深い作品をよく噛んで味わうことで、
いい意味で、感覚がリセットされるはずですよ。