現在、表参道のGYRE GALLERYで開催されているのは、
“ヴォイド オブ ニッポン 77展 戦後美術史のある風景と反復進行”という展覧会です。
タイトルに、“77”とありますが、
これは、“ヴォイド オブ ニッポン”なる展覧会が、
過去に76回行われて、今回が77回目、というわけではありません。
今年8月、太平洋戦争終結から77年が経過しました。
その太平洋戦争終結から明治維新までも77年なのだそうです。
つまり、今年2022年は、戦前と戦後の長さがちょうど77年で同じということ。
それを記念して(?)、開催されているのがこちらの展覧会なのです。
なお、テーマは「戦後美術史のある風景と反復進行」とのこと。
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ちょっと何を言ってるかよくわからないでしょうから、
もう少し平たく言うと、現在活躍する日本の作家を通して、
戦後日本の美術家を紹介しようと試みた展覧会です。
なので、会場には、現代アーティストと、
戦後日本の美術家の作品が入り混じっています。
例えば、40歳で急逝するまで、
自分の左耳をモチーフにした彫刻を作り続けた三木富雄の作品。
そのすぐ横には、彫刻の新しいあり方を、
探求している現代美術家・金氏徹平さんの作品が設置されていました。
他にも。
今注目の現代美術家の一人、大山エンリコイサムさんの作品と、
戦後の美術界を牽引した中西夏之の作品が同じ空間で展示されていたり。
一貫してミシン刺繍で作品を制作し続ける青山悟さんと、
千円札裁判でお馴染みの赤瀬川原平さんの作品が並べられていたり。
時代を超えた意外な組み合わせが楽しめます。
アート版の『速報!歌の大辞テン!!』といった感じでしょうか。
ただ、それらの組み合わせの妙が興味深かっただけに、
「どうして、この作家とこの作家を対応させているのか?」、
「戦後の美術家はともかくも、なぜこの現代作家が選ばれたのか?」、
その辺りの説明が会場内にも、ハンドアウトにも一切無かったのが残念でした。
そもそも、作品自体の説明も無かったですし。。。
ちなみに。
この展覧会の起点となっているのが、
フランスの批評家・哲学者であるロラン・バルトによる戦後の日本評。
バルトは日本の特徴を、
中心の欠如した「空虚」であると表現したそうです。
それゆえ、今展の重要なキーワードとして、
ステートメントにも「空虚」という言葉が何度も登場していました。
あまりにも作品の説明が無さ過ぎて、
何もわからない自分自身を空虚に感じる。
そんな展覧会でもありました。
とはいえ。
わからないなりに、印象に残った作品もいくつもありました。
例えば、1984年生まれの須賀悠介さんの《National Anthem》という作品。
ギリシャ神話の登場人物っぽい青年が、
自らの首を切り落とし、左手に掲げています。
首の切断面からは植物が生え、
背中や肩には、空母のようなものがくっ付いています。
まったく意味はわかりませんでしたが、
ここまでシュールな彫刻作品は見たことがないので、
逆に、惹きつけられるものがありました。
また例えば、前衛画家・北村勲による《霊柩車浮上す》という1974年の作品。
こちらも、まったく意味はわかりませんでしたが、
まるで涙を流しているような瓶が海に流れ着いた様は、
そう遠くない未来に起きる海洋汚染問題を暗示しているようにも思えます。
あと、それとは全然関係ないですが、
最近、霊柩車って見かけなくなりましたね。
霊柩車を見たら親指を隠す行為を久しくやっていないような気がします。
それから、今回の展覧会で、個人的に、
一番のハイライトは、河原温の初期の作品が見られたこと。
コンセプチュアルアートを発表する前は、こんな作品を制作していたのですね。
こちらは、河原温が1955-56年に制作した『死仮面』という素描の連作群↓
ハッキリ言って、めちゃめちゃ気味が悪かったです。
『グラップラー刃牙』に出てきそうなのが何人かいました。