現在、渋谷区立松濤美術館では、
“装いの力―異性装の日本史”が開催されています。
テーマは、「異性装」。
異性装とは、生まれながらの性別を、
服装の力によって越境する試みのこと。
ざっくり言えば、女性が男性の服装を、
男性が女性の服装を身に付けることです。
サブタイトルに、“異性装の日本史”とあるように、
この展覧会では、そんな異性装の日本における歴史を紹介しています。
第一展示室の冒頭に展示されていたのは、なんと『古事記』。
実は、異性装の最古の事例は、
『古事記』に登場しているのだそうです。
記録上、日本で初めて異性装をしたのが、こちらの人物。
三代・山川永徳斎 《日本武尊》
ヤマトタケル(日本武尊)です。
九州に住むクマソタケルの征伐を命じられた彼は髪を下ろし、
女性の着物を身にまとい、女性のフリをして、クマソタケルの宴会に忍び込みました。
そして、その美しさに見惚れたクマソタケルの隙をついて殺害したそうな。
日本史上初の異性装は、物騒な理由で行われたものだったのですね。
と、そんなわけで、古代から始まるこの展覧会。
兄妹が男女逆に育てられた平安時代の物語『とりかへばや物語』や、
いわゆる若衆を描いた葛飾北斎の肉筆画《若衆文案図》など、
異性装にまつわる貴重な資料、美術品が数多く展示されています。
それらの中には、日本を代表する異性装文化、
・・・と言っても過言ではない歌舞伎に関する作品も。
かぶき踊りの創始者とされる出雲阿国が描かれた《阿国歌舞伎草紙 第二段》です。
女性が男装するこの女歌舞伎は、
寛永6年に、風俗を乱すという理由で禁止されましたが。
この女歌舞伎が発展した歌舞伎は、
今や日本を代表する伝統芸能となっています。
また、珍しいところでは、こんなものも展示されていました。
井伊家に伝わった《朱漆塗色々威腹巻》。
実はこちらは、女性用の甲冑です。
女性のサイズに合わせ、かつ華やかに作られているとのことで、
それは女性用なのだから、異性装ではないような気もしなくもないですが。
何はともあれ、女性用の甲冑は遺例として大変貴重なものなのだそう。
こんな甲冑を着こなせるのは、
現代ではレディー・ガガくらいなものですね。
第一展示室では他にも、異性装する人物も登場する能に関する資料や、
異性装する人々が描かれた江戸時代の浮世絵などが紹介されています。
なんとなく、異性装というと、
ここ近年の文化のように思っていましたが。
こんなにも古くから日本に根付いていたのですね。
さてさて、続く第2展示室では、
明治から現代にかけての異性装が紹介されています。
石井林響の《童女の姿になりて》に始まり、
大正から昭和にかけて少年少女から絶大な支持を得た高畠華宵の絵画、
『ベルサイユのばら』や『ストップ!!ひばりくん!』といった漫画の原画も展示。
さらには、男装の麗人“ターキー”として、
絶大な人気を博した女優・水の江滝子に関する資料も展示されていました。
他にも、昭和初期に人気を博した女装芸者や、
異性装に関する雑誌、舞台・演劇の資料なども紹介。
第一展示室と比べて、内容が多様なだけに、
そして、時代が近づいただけに、かなりカオスな印象を受けました。
第一展示室と第二展示室の雰囲気が、
「高低差ありすぎて耳キーンなるわ」状態でした。
さて、展覧会の最後に紹介されているのは、
異性装を表現として取り入れた現代アート作品です。
現代アート界で異性装と言えば、もちろんこの人。
森村泰昌さんの作品は外せませんよね。
それと、ダムタイプの《S/N》記録映像と併せて、
ダムタイプの中心的メンバーだった古橋悌二が「ミス・グロリアス」名義で、
仲間とともに始めたという日本最初期のドラァグ・クイーンによるダンスパーティー、
"DIAMONDS ARE FOREVER"のメンバーによるインスタレーションも展示されていました。
あまりにもインパクトがありすぎて、
今まで見てきたものが、一発で吹っ飛んでしまうレベルです(笑)
なお、展示室入り口には、フラッシュ撮影すると顔が光る、
これまたインパクト絶大なフォトスポットも用意されていました。
油断していると、展覧会全体の印象が、
すべてドラァグクイーンに持っていかれそうになります(笑)
なので、会場を2周するのをオススメします。
個人的には、これまで異性装に興味はなかったのですが。
(昔、コントで女装したことはありますがw)
長い歴史を知って、少し興味が湧きました。
異性装してみようかしら。
展覧会の会期終了の10月30日の翌日は、くしくもハロウィンの日。
この展覧会が渋谷で盛り上がることで、
渋谷ハロウィンで異性装する人が増えるかもしれませんね。