12年ぶりに、プライベートで、
瀬戸内国際芸術祭を巡ってきました。
『芸術新潮』のお仕事で3年前にも訪れていますが、
休むことがほぼ許されない肉体派企画だったので、今回はプライベートでゆったりと。
メインはもちろん、新作を中心とした、
瀬戸内国際芸術祭2022の作品群を観ることでしたが。
それ以上に楽しみにしていたのが、
これまで行く機会がなかった2つの美術館、
犬島精錬所美術館と豊島美術館への訪問です。
まずは、犬島精錬所美術館へ。
犬島精錬所美術館は、岡山県の犬島にかつてあった、
しかも、わすか10年しか稼働しなかった銅製錬所の遺構を保存・再生した美術館です。
コンセプトは、「在るものを活かし、無いものを創る」とのこと。
仕組みを聞いたのですが、悲しいかな、
詳細は右耳から左耳へと抜けてしまいましたが。
確か、この美術館の建物もそんな感じで、
空気が上手く抜けるように設計されているそうで、
また、太陽や地中熱も上手く利用し、冷暖房入らずになっているそう。
見た目はワイルドながら、自然に負荷をかけない優しい建物となっているようです。
また、館内は写真撮影禁止となっていますが、
柳幸典さんによるダイナミックなインスタレーション作品が設置されています。
そんな犬島精錬所美術館を初訪問して、
印象的だったあれこれを紹介いたしましょう。
●カラミ煉瓦のポテンシャルが高かった!
美術館の内外で目にした一風変わった煉瓦。
これは、カラミ煉瓦というものなのだそうです。
銅の精製で生じた廃棄物から作られたものとのこと。
今風に言えば、サスティナブルな建材です。
しかも、この煉瓦は、ただエコなだけでなく、
熱の吸収と蓄熱を繰り返す性質があるとのこと。
太陽の熱を吸収したら、5~6時間は冷めないそう。
反対に冬の寒い時は、冷気をしばらく保つそうです。
犬島精錬所美術館では、カラミ煉瓦のこの熱エネルギーを巧く活用しているのだとか。
世の中に、こんな煉瓦があったとは!
SDGsな昨今に、再注目を集めそうな煉瓦です。
●廃墟感がエモかった
館内の柳幸典さんももちろん素晴らしかったですが。
敷地内にある精錬所や発電所跡が、
あまりにもディストピア感満載でインパクト抜群だったので、
美術館でアートを観た印象が、若干上書きされてしまいました(笑)
まるで、『ライアーゲーム』とかデスゲームの舞台のよう。
初めて訪れる方は、先にこちらを観てから、
美術館でアートを楽しむほうが良いかもしれません。
さてさて、続いては豊島美術館へ。
「豊島」と書いて、「てしま」に、
2010年にオープンした美術館です。
設計したのは、世界的に活躍する建築家・西沢立衛さん。
平たい山のようなものが2つ見えていますが。
右が豊島美術館で、
左がカフェ&ショップスペースです。
水滴をイメージした不思議な形状のこの建物は、
盛り土を型枠の代わりにして、コンクリートを打ち込むという、
おそらく世界初、前代未聞の工法で作られています。
それがどれくらいスゴいことなのかを、
文字だけで説明できる気がしないので、
というか、実際に画像を観て頂いた方がわかりやすいので。
どうしても気になる方は、是非こちらのページをご覧くださいませ↓
いやー、大変な苦労をかけて作られた建物だったのですね。
この建物自体が、まさにアート作品です。
そんな豊島美術館に行ってみて気づいたことを発表したいと思います。
●すぐには美術館に入れなかった
チケットは事前予約制。
当日券もあるにはあるようですが、
瀬戸内エリアでも屈指の人気スポットゆえ、
事前にチケットを手配しておいた方が確実です。
受付を済ますと、これ以上ないくらいにシンプルなチケットと、
さらに、これ以上ないくらいにシンプルなハンドアウトが手渡されます。
これを手に、すぐさま美術館へ・・・・・・と思ったら。
ぐるっと迂回するように、遊歩道を歩かされます。
これもまた演出の一つ。
木々を見たり、海を見たり。
自然をこれでもかと感じたあとに、
ようやく豊島美術館が待っているのです。
我慢した分だけ、ビールが美味い。
その感覚に近いものがあります(←?)。
●内藤礼さんの作品はただただ良かった
館内では、内藤礼さんによるインスタレーション作品《母型》が展示されています。
展示作品は、その1点のみ。
メニュー一品だけで勝負する(?)、こだわりの美術館です。
どんな作品なのか、簡単に説明すると、
床のいたるところに、穴が空いていまして。
そこから地下水がちょろちょろっと湧き出し、
それらの水滴がススッと流れ集まって、水たまりをあちこちで作るというもの。
その光景は、『ターミネーター2』で、
凍らせて粉砕したはずのT-1000の破片が、
熱により液体状になって集まるあのシーンを彷彿とさせるものがありました。
いや、あくまであのシーンに似ているだけで、
T-1000のような不気味さ、怖さはありません。
むしろ不思議と眺めているだけで、心が安らぐものがありました。
それに加えて、内藤礼さんの他の作品でも登場する、
糸やリボン、小さなお皿や玉が、空間内に配置されています。
作品としてはただそれだけなのですが、
どこを切り取っても画になるほどに、すべてが絶妙に配置されていました。
世の中に「絶対」は無いとは言いますが、
もし、一つだけ「絶対」があるとするのならば、
豊島美術館の建物と《母型》の組み合わせこそが、絶対。
自然と建物とアートとが、こうあるべき、
いや、これしかないという絶対的な調和を見せていました。
豊島に足を運んで経験するだけの価値はあります。
●寝てる人も意外といた
建物の天井に大きな開口部が2つも空いているので、
館内というよりも、ほとんど外にいるような気分になるのですが。
僕が訪れた日は、10月とは思えない暑さだったのにも関わらず、中は心地よく快適でした。
そのため、横になって休んでいる人もちらほら。
夏には、本当に寝ている人もいるとかいないとか。
床から湧き出る水にだけは、お気を付けくださいませ。