1872年10月14日。
この日、日本で初めての鉄道が開通しました。
今年2022年は、それから150年目となるメモリアルイヤーです。
また、今僕らが当たり前に使っている「美術」という言葉が初めて登場したのも1872年。
つまり、ある意味、美術も今年が150周年の節目の年に当たります。
それを記念して、現在、東京駅構内にある美術の殿堂、
東京ステーションギャラリーで開催されているのが、“鉄道と美術の150年”という展覧会。
明治から今に至るまでの150年の鉄道に関する美術品を紹介する展覧会です。
(注:館内の写真撮影は、特別に許可を得ております)
鉄道と美術。
ありそうで、意外と無かった組み合わせです。
それだけに、展覧会の端々から、東京ステーションギャラリーの、
「うちがやらねば誰がやる!」という決意や自負のようなものが感じられました。
というのも、出展数は、“日本のゴッホ”と呼ばれた長谷川利行の《田端変電所》や、
日本初のグラフィックデザイナー・杉浦非水によるアジア初の地下鉄開通を知らせるポスター、
“裸の大将”こと山下清がデザインを手掛けた駅弁のパッケージ原画を含む・・・・・
実に約150点!!
しかも、作品の所蔵先は、
日本全国約40ヵ所にものぼります。
日本中から集めに集めた展示作品は、
展示室にギュウッと詰め込まれていました。
乗車率でいえば(←?)、150%を超えていた気がします(笑)
また、出展作品の中には、河鍋暁斎による下絵や、
今年没後45年を迎える幻の日本画家・不染鉄、
さらには、個人旅行客の増大を目的に、日本国有鉄道(JRの前身)が、
1970年に始めた画期的なキャンペーン、ディスカバー・ジャパンなどなど
これまでに東京ステーションギャラリーの展覧会で、
取り上げられた作家や作品も数多く出展されていました。
懐かしの顔ぶれが大集合。
まさしく、東京ステーションギャラリーの集大成ともいうべき展覧会でした、
一つ一つの作品ももちろん素晴らしいですが、
キャプションのテキストも読みごたえがあるため、
鑑賞中、ついつい何度も足を止めてしまいます。
もし時間がなく、特急で観ようと思っていても、
ぶらり途中下車を何度も余儀なくされる展覧会です。
さてさて、勝海舟が描いた鉄道の絵や、
立石大河亞が故郷の景色をモチーフにした《香春岳対サント・ビクトワール山》をはじめ、
印象に残った作品は多々ありましたが。
個人的にもっとも印象に残っているのは、
京都生まれの染色家・山鹿清華による《驀進》でしょうか。
この展覧会を通じて、初めて山鹿清華を知りましたが、
パリ万博工芸博では大賞を受賞した経験があるほどの実力者とのこと。
なお、モチーフとなっているのは、満鉄の特急列車『あじあ』だそうです。
長い年月の中で色が劣化してしまったのか。
はたまた、この作品が飾られていた近くで、タバコを吸う人が多かったのか。
もしくは、もともとこういう色合いだったのか。
セピア調のトーンゆえ、ターナーの絵を彷彿とさせるものがありました。
また、印象的だったと言えば、
個々の作品の印象ではなく、全体的な印象ですが、
現代に近づくにつれ、鉄道をテーマにした美術作品が少なくなっていることも印象深かったです。
東京駅を映した本城直季さんの写真作品や、
渋谷駅に設置されている《明日の神話》に落書きした、
と世間をお騒がせしたChim↑Pomのあの作品など数えるほどでした。
昭和の途中くらいまでは、鉄道をテーマにした作品は多かったのに。
これは僕の勝手な推測なのですが、
ある程度の時期までは、鉄道や駅は、
「不特定多数の人が集う場所」の象徴でもあったのかと。
しかし、今はその象徴がインターネットに取って代わられたので、
あえて鉄道や駅を美術の題材とする機会が減ったのかもしれません。
最後に。
もっとも印象に残った作品をご紹介いたしましょう。
村井督侍の《「山手線のフェスティバル」ドキュメンタリー写真》。
こちらは、1962年に駅のホームや電車内で、
ゲリラ的に行われた芸術行為、すなわち山手線事件、
あるいは、山手線のフェスティバルの様子を映した記録写真です。
山手線の車内で白塗りの人物が、
卵型のオブジェを懐中電灯で照らすなど、
さまざまな行為が行われたのだとか。
いきなり始まったトンデモ行為を、
他の乗客たちの冷ややかなリアクションが、
あまりにもリアルだったのが、何よりも印象的でした。
元祖迷惑系ユーチューバー。
┃会期:2022年10月8日(土)~2023年1月9日(月・祝)
┃会場:東京ステーションギャラリー
┃https://www.ejrcf.or.jp/gallery/exhibition/202210_150th.html
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