■吾妻おもかげ
作者:梶よう子
出版社:KADOKAWA
発売日:2021/11/24
ページ数:336ページ
絵師を志すも挫折を味わった菱川吉兵衛。
気づけば十年もの間、
吉原と芝居小屋という「二大悪所」に入り浸る日々を過ごしていた。
そんな中、つらい憂き世をあえて楽しもうとする、
遊女たちの心意気に励まされた吉兵衛は、再び絵筆を執ることを決意する。
だが、ある日、巻き起こった大火に江戸の町が飲み込まれ…。
吉原の遊び人から成りあがった、江戸一番の絵師、菱川師宣。
時代を写し取り、浮世絵の祖となった男の波瀾万丈の生涯。
(「BOOK」データベースより)
「《見返り美人図》で知られる“浮世絵の祖”菱川師宣の生涯を描いた小説です。
菱川師宣も、彼の作品に関しても、
それなりには知ってるつもりになっていましたが。
そういえば、改めて、どんな絵師だったのか?
そもそもその人物像については何も知りませんでした。
この小説に描かれている菱川師宣の姿が、
史実に沿ったものなのか、それとも作家によるフィクションなのか、
実際のところはわかりませんが、この小説を読んだことで、
自分の中で、確実に菱川師宣像が生まれました。
それだけでも、この小説を読んで良かったです。
さて、その菱川師宣像ですが。
人間として好きになれるかというと、個人的にはう~ん・・・。
千葉の片田舎から絵師になるという、
決意をもって上京したものの、早い段階で挫折。
その後は、10年近く、親の仕送りでドロップアウト生活を続けます。
しかし、とある一件をきっかけに、
絵師としての魂に再び火が灯り、再起を図ることに。
そこからは、途中何度も困難に見舞われながらも、絵師の道を邁進。
最終的には、絵師として革命的な成功を起こします。
この辺りのくだりは、まるでTBSの『日曜劇場』を見ているよう。
王道のサクセスストーリーといった感じでした。
ただ、小説1冊分ゆえ、
一人の絵師の生涯を描くには、
駆け足になってしまうのは仕方のないところ。
町絵師として輝かしい成功を収めてからの、
ダークサイドに堕ちる(?)までのスピードが尋常でありませんでした。
師宣のあまりの変貌ぶり、驕りっぷりに、
読んでいて、若干・・・いや、だいぶとドン引きしました。
こんなに感情移入できない主人公も珍しいです。
これが朝ドラなら、Twitter上で、
「#師どんどん反省会」なるハッシュタグが盛り上がったかもしれません。
菱川師宣が秘かに敬愛する岩瀬又兵衛との邂逅や、
どこか憎めない魅力的なキャラとして登場する英一蝶など、
小説内の見どころは多々ありましたが。
やはり何といっても一番の見どころは、
いろいろ経験した師宣が《見返り美人図》を描くシーンでしょうか。
あの絵にそんな想い、ドラマが込められていただなんて。
思わず心を打たれるものがありました。
作者の梶よう子さんと違って、同じ絵を題材にしながらも、
こんなくだらないモーソウしか思い浮かばなかった自分って。。。
読みながら、若干・・・いや、だいぶと自分にドン引きしました。
(星3.5)」
~小説に登場する名画~
『好色一代男』の挿絵