丸亀市猪熊弦一郎現代美術館で、
現在開催されているのは、“今井俊介 スカートと風景”という展覧会。
1978年福井県生まれのアーティスト、
今井俊介さんの美術館では初となる大規模個展です。
今井俊介さんの代名詞ともいえるのが、
ポップな色合いと、なびくようなストライプ。
特に珍しいモチーフを描いているわけではないのに、
一目で今井さんの作品とわかる、オリジナリティがあります。
一見すると、抽象画のように思えますが。
実は、その制作スタイルはかなり複雑で、
そこにも今井さんのオリジナリティがいかんなく発揮されています。
まず、パソコン上でグラフィックを考えます。
次に、そうして出来上がったストライプなどの図柄を紙にプリントアウトします。
そして、そのプリントアウトしたものを、
たわませたり、折ったり、半立体の状態で撮影します。
で、最後に、その画像データを構成して、絵画として描くのだそうです。
なるほど。だから、抽象画のようでありながら、
ただの抽象画ではない、具象画のような雰囲気、
実在感というか現実感のようなものが感じられるのですね。
実際に目にしたものを描いているわけですから。
抽象画というよりも、写実絵画に近いものがあります。
今展では、そんな今井さんのシリーズの、
初期から最新作までが一堂に会しています。
こちらは、その最新作のうちの1つ↓
海苔やお茶の缶のパッケージっぽいなァと思ったら、
街中で見かけて一目ぼれしたワンピースの柄がモチーフとのこと。
展覧会では、そのワンピースの写真も紹介されていました。
実物のワンピースは、海苔やお茶の缶っぽくはなかったです。
また、写真だけでなく、
絵画作品と対応する布も併せて展示されていました。
絵画を観て、布を観て、また絵画を観て。
そうすることで、平面的に思えていた絵画に、
奥行きやレイヤーなどが見て取れて、立体的に感じられるように。
なんとも不思議な鑑賞体験でした。
ところで、気になるのは、どのようにして今井さんが、
この独創的な制作スタイルを生み出したのかということ。
そのヒントは、展覧会のタイトルにありました。
描きたいモチーフが思い浮かばず、
苦しんでいたという若き日の今井さん。
そんなある日、構内でふと目にしたのが知人のスカートでした。
その光景に思わず目と心を奪われ、
描きたいという強い衝動に駆られたのだとか。
そうして描かれたのが、こちらの作品です↓
確かに、こんな派手なスカートを目にしたら、
思わず気になってしまうのは、わかるような気がします。
とはいえ、いきなり「スカートを描かせて!」と言ったら、普通はドン引きされそうなものです。
もし、そのスカートの女性が拒絶していたら、
この作品は当然生まれていなかったでしょうし、
現在の今井さんの作品シリーズも生まれていなかったはず。
スカートの女性が理解のある方で何よりでした。
ちなみに。
展覧会のラストでは、
制作に関する資料の数々が紹介されています。
それらの中には、アトリエでの制作光景を映した写真の数々も。
写真はすべて今展のために、田中和人さんが撮り下ろしたものです。
今井さんの絵画作品は、近くでマジマジと観ても、
筆跡がわからず、まるでコンピューターで出力したように感じられますが。
制作光景を目にして、ちゃんと筆で描かれていたことを初めて実感できました。
制作光景でもう一つ印象的だったのは、
かなりの頻度で、タバコを吸っていらっしゃったこと。
なお、銘柄はキャメル・ライト・ボックスでした。