現在、東京都現代美術館で開催されているのは、
“ウェンデリン・ファン・オルデンボルフ 柔らかな舞台”という展覧会です。
ウェンデリン・ファン・オルデンボルフ。
字面だけ見ると、ヒドい筋肉痛にも効きそうな気がしますが(←?)。
2017年ヴェネチア・ビエンナーレのオランダ館代表も務めた、
国内外で活躍する、オランダを代表する現代アーティストの一人。
2016年のあいちトリエンナーレにも参加していますが、
日本で彼女の個展が開催されるのは、今回が初めての機会です。
まず展覧会の冒頭で紹介されていたのは、
彼女ファン・オルデンボルフの初期の代表作《マウリッツ・スクリプト》。
こちらの映像作品は、かつてブラジルにあったオランダ領がテーマ。
そこで総督を務めたヨハン・マウリッツの統治に関して、
オランダ本国では現在、人道主義的と評価されてはいますが、
実際のところはどうだったのか、さまざまな立場の人が議論をするというものです。
なお、この作品に限らず、ファン・オルデンボルフは、
作品の大枠は設定するものの、議論の内容にはノータッチ、
参加者たちが自発的に交わした会話を、のちに編集して作品に仕上げているそう。
ちなみに、この作品が撮影された場所は、
マウリッツハイス美術館のゴールデンルームとのこと。
《真珠の耳飾りの少女》でお馴染みのマウリッツハイス美術館は、
もともとは、ヨハン・マウリッツが住んでいたHUIS(=家)だったそうです。
映像の本編とは関係ないですが、一つ勉強になりました。
なお、その作品と向き合うように展示されていたのは、
旧オランダ領東インドにおけるラジオの歴史をテーマに、
インドネシア独立運動に焦点を当てた《偽りなき響き》という映像作品。
ラジオ・コートワイクというアールデコ期の建物を舞台に、
政治家やジャーナリスト、ラッパーやDJが参加し、対話したものです。
さて、《マウリッツ・スクリプト》は26分/38分、
《偽りなき響き》の上映時間30分と、なかなかの長尺。
今回の展覧会には他に、新作を含め、4点の映像作品があります。
これといった始まりや終わりがなく、
どの映像もループ再生されている感じではありますが、
すべてを一日で全部観るのは、かなりのカロリーを消費します。
それゆえ・・・・・
展覧会期間中に限り、別日に一度だけ、
再入場できるウェルカムバック券なるものが用意されています。
そのためだけに現美にもう一度足を運ぶのも、
それはそれでカロリーを消費するのは否めませんが、
じっくりたっぷりとこの展覧会を楽しみたい人は活用しない手はないでしょう。
ちなみに。
スケジュール的に、全部の作品を観れそうもなかったので、
自分は今回の日本での展覧会用の新作《彼女たちの》に絞って鑑賞しました。
上映時間は40分。
この新作で取り上げられているのは、
お互いに接点はないものの、ともに1951年に夭逝した2人の小説家。
『放浪記』で知られる林芙美子と、
『貧しき人々の群』で知られる宮本百合子です。
林芙美子記念館と神奈川県立図書館を舞台に、
2人の著書に記された女性の社会的地位や性愛などのテキストを、
研究者や建築家、俳優やDJといった人々が朗読し、対話する内容でした。
ジェンダーについての議論も多く、
今日的なテーマではあったとは思いますが、
“なぜ、令和の今に林芙美子と宮本百合子?”の感も。
若干の中だるみもあったので、
“林芙美子といえば、『放浪記』。
『放浪記』といえば、森光子だよなァ。
確か、でんぐり返ししてるんだよね、毎回。何でなのかは知らんけど。”
と、途中から、森光子のでんぐり返しのことばかりを考えていました。
“森光子って、80歳を超えても、
トレーナーに鍛えてもらいながら、でんぐり返ししてたんだよなァ。
でも、それだけ鍛えていたとしても、
舞台の床が硬かったら、頭とか背中とか痛いだろうなァ。
せめて、柔らかな舞台だったら・・・”
奇跡的に、今回の展覧会名と結びつきました。
だから何だよって話ですが。