川越市市制施行100周年&開館20周年。
そんなダブルのメモリアルイヤーを記念して、
現在、川越市立美術館では“小茂田青樹展”が開催されています。
大正から昭和初期にかけて活躍した、
川越生まれの日本画家・小茂田青樹の19年ぶりとなる大回顧展です。
実は何を隠そう、僕は小茂田青樹の大ファン。
10年近く前に、埼玉県立近代美術館で、
晩年の傑作《春の夜》を観て以来、ひそかにずっと推していました。
他の日本画家とは違う、独自の世界観を確立しているのに。
今ひとつ、知名度がパッとしないのは、
まず間違いなく、速水御舟のせいでしょう。
青樹が松本楓湖に入門したその数時間後に、
同じく松本楓湖のもとに入門したのが速水御舟。
以来、終生のライバルとして切磋琢磨し合う関係となりました。
御舟の展覧会は定期的に開催されていますが、
そのたびに、青樹は御舟のライバルという形で、
いうなれば、バーターのような形で紹介されています。
御舟の“じゃない方”。
それが小茂田青樹なのです。
また、青樹は41歳という若さでこの世を去っています。
もし、青樹が長生きしていたら、もっと名前が残っていたかもしれませんね。
さてさて、今展には新発見の作品や、
《春の夜》を含め、全部で65点近くの作品が出展されています。
メインビジュアルに採用されている《村道》や、
どことなく、ミレーの作品を彷彿とさせる《麦踏》も良かったですが。
個人的にイチオシしたいのは、
晩年に描かれたという《晩秋》です。
こちらに気づいた様子のイタチの可愛さに、心を撃ち抜かれました。
イタチの姿かたちももちろんカワイイのですが、
絵全体に対して、ちょろっと描かれたそのサイズ感も可愛かったです。
絶妙なミニチュア感。
絶妙なこじんまり感です。
絶妙なこじんまり感といえば、こちらの《豊穣》も。
画面右下のかかしの小ささたるや!
絶妙にもほどがあります。
と、可愛さばかりに目がいってしまいますが、
ただ可愛いだけじゃないのが、青樹の一番の魅力。
例えば、《豊穣》もよく目を凝らしてみると・・・・・
稲穂を1本1本。
さらに、籾も1粒1粒、丁寧に描かれています。
いや、丁寧を通り越して、執拗さや執念に近いものがあるような。
絵によっては、ちょっとした狂気すら感じられるものもありました。
例えば、こちらの《緑雨》という作品。
雨を受けてたわむ大きな芭蕉。
その下には、一匹のカエルがいます。
一部、花のピンク色や木の幹の茶色はありますが、
全体がこれでもかというくらいに、緑で統一されています。
さらに特徴的なのが、雨の描写。
ぽつぽつ、でも、しとしと、でもなく。
びろ~ん。
雨なのに、鼻水くらいの粘度があります。
どういう発想をしたら、こんな絵が生まれるのか。
青樹の独創性に脱帽です、
なお、全体的にカラフルな作品が多いですが、
展覧会では、青樹としては異色の墨画も出展されていました。
それが、こちらの《秋意》という作品です。
葡萄の描写が、実に見事!
思わず一粒摘まんで食べてみたくなる衝動に駆られました。
それくらいにリアルに感じられます。
また、墨を塗っていない、
つまり、ただの地の紙の色なのに、
月がまぶしく感じられました。
モノクロながら、多彩な魅力が詰まった1枚です。
最後に、もう一つ推し作品をご紹介。
《甘夏厨房》と題された1枚です。
鮎の顔のとぼけた表情が、個人的にツボ。
植田まさしの漫画の登場人物のようです。
この展覧会をきっかけに、
青樹がもっとブレイクしますように!
いずれ東京でも大規模な回顧展が開催されますように!