現在、埼玉県立近代美術館では、
“桃源郷通行許可証”が開催されています。
(注:展覧会はおおむね一部撮影可。不可の作品の写真撮影は、特別に許可を得ております。)
と、八文字熟語のようなタイトルだけ聞いても、
どんな展覧会なのかイメージが湧かないことでしょう。
展覧会の冒頭の解説によれば、“桃源郷通行許可証”とは・・・・・
芸術作品は「桃源郷」への扉を開くための「通行許可証」のようなものである
とのこと。
なるほど。芸術作品とはそういうものなのかもしれませんね。
でも結局、どんな展覧会なのかはイマイチわかりづらいですよね。
ザックリ言ってしまえば、この展覧会は、
幅広い世代、ジャンルの6名の現代作家と、
埼玉県立近代美術館のコレクションが時空を超えて、コラボするというもの。
ピンホール・カメラで制作を続ける佐野陽一さん×
明治末期にフランスに渡り、印象派や新印象派の影響を受けた斎藤豊作や、
「関西ニューウェーブ」の作家の一人で関西を拠点に活躍する松井智惠さん×
大正から昭和にかけて、京都画壇で活躍した四条派の日本画の巨匠・橋本関雪、
現代日本を代表する抽象画家・松本陽子さん×
ジャン=バティスト・カミーユ・コロー&菱田春草&丸木位里、
庭や空き地、住居といった身近な風景を描く稲垣美侑さん×
現代銅版画の先駆者で「腐蝕の魔術師」の異名を持つ駒井哲郎など、
ありそうでなかった、でも、不思議としっくりくる、
そんな意外なマッチングが楽しめる展覧会となっていました。
今展で個人的にもっとも強く印象に残っているのが、
蛍光灯や布など身近な素材で作品を制作する東恩納裕一さんの展示空間です。
埼玉県立近代美術館といえば、
椅子のコレクションで知られる美術館。
ということで、それらの中から、
ロン・アラッドや柳宗理らの名作椅子をチョイスし、
一風変わった《ダイニングセット》を作っていました。
なお、テーブルの上に乗っているは、LEDで作られた果物皿。
それに合わせて、キスリングの静物画も展示されています。
また、写真撮影は不可ですが、
この空間内には、山田正亮によるストライプ絵画も展示。
ストライプが印象的なマッキントッシュの名作椅子と対応させていました。
さらに、ストライプ繋がりで、東恩納さんのこれらの作品も設置。
で、マッキントッシュの椅子越しに、東恩納さんの作品を観ると・・・・・
チェック柄が浮かび上がる仕掛け(?)になっていました。
ちなみに。
《ダイニングセット》の上に布が置いてあるのに合わせて、
監視員さん用の椅子にも、大きな布がかぶせられています。
見れば見るほど、発見のある展示空間。
考察が楽しい展示空間となっています。
それからもう一人印象に残っているのが、
「もの派」を代表する菅木志雄さんとコラボした文谷有佳里さん。
文谷さんは、音楽学部卒作曲専攻という異色の経歴を持つアーティスト。
ペンや鉛筆、カーボン紙などを使って、
譜面のような建築図面のような漫画の効果線のような、
でもそのどれでもないような、唯一無二のドローイング作品を生み出しています。
始めて観るのに、どこかで見たことがあるような。
やっぱり、どこでも見たことがないような。
観れば観るほど、奇妙な感覚に陥る作品です。
ちなみに。
埼玉県立近代美術館のレストランでは、
“桃源郷通行許可証”に合わせたコラボメニューが提供されているようで。
ボロネーゼ×食材たち。
・・・・・それは結局、普通のボロネーゼなのでは?