つい先日、『ちはやふる』の最終巻が発売され、話題となりましたね。
令和になった今もなお、お正月の定番として親しまれている百人一首。
そんな百人一首をテーマにした展覧会が、
現在、すみだ北斎美術館で開催されています。
その名も、“北斎かける百人一首”。
北斎やその弟子たちが描いた、百人一首にまつわる作品を紹介する展覧会です。
まず、展覧会の冒頭で紹介されていたのが・・・・・
(注:館内の写真撮影は、特別に許可を得ております。)
百人一首に関する書物の数々です。
百人一首そのものが成立したのは、鎌倉時代のことですが、
一般に広く親しまれるようになるのは、意外にもずっと後のこと。
江戸時代中期頃になると、
解説付きの書物が多く出版されたり、
教科書や手習いの見本にも取り入れられたり。
一般教養として、百人一首が広まっていったのでした。
さらに、書物以外に、百人一首を広めたものがあります。
それは、ポルトガルから伝わったカルタです。
百人一首のカルタが作られたことで、
さらに爆発的に庶民の間に広まっていったのでした。
菱川宗理《美人正月遊興図》 すみだ北斎美術館蔵(前期)
江戸時代、どれほど百人一首が広まっていたのか。
それを知ることができる肉筆画が展覧会に出品されていました。
抱亭五清の《美人と花籠図》です。
抱亭五清《美人と花籠図》 すみだ北斎美術館蔵(前期)
女性の着物の帯の模様にご注目。
なんと百人一首カルタ柄になっています(一部、『拾遺和歌集』の歌も)。
ついに、百人一首は着る時代へ!
この帯があれば、ちょっとした空き時間に、
カルタ遊びして楽しむことができそうですね(←?)。
さてさて、展覧会のメインとなるのは、
北斎による《百人一首乳母かゑとき》です。
乳母かゑとき=乳母が絵解き。
百人一首の歌の意味を乳母が絵で説明できるように、
つまり、大人が子供に説明するための知育絵本的な要素を持つシリーズです。
「冨嶽三十六景」や「諸国名橋奇覧」など、
数多くのヒット作を飛ばした北斎が最後に手掛けたシリーズでもあります。
・・・・・・・それなのに。
「冨嶽三十六景」や「諸国名橋奇覧」と比べて、
今一つ、いや、今二つ三つくらい知名度がありません。
その理由は、百人一首といいながら、100図無く、
結局のところ、27図しか発売されなかったからでしょう。
60図以上の版下絵が確認されていますが、
それらの図はすべて出版にいたっていません。
漫画に例えるならば、連載の途中で打ち切りになってしまったようなもの。
そんな北斎先生の黒歴史(?)ゆえか、
展覧会ではあまり大々的に取り上げられることがありません。
ところで、気になるのは、打ち切りとなったその理由です。
葛飾北斎《百人一首乳母かゑとき 柿の本人麿》 すみだ北斎美術館蔵(前期)
まず考えられているのは、
採算が取れなかったのではないかということ。
色数が多く、技法も手が込んでいるため、
どうしても、原価が高くならざるを得なかったそう。
いわゆるコスパが悪い商品だったのですね。
そして、もう一つ大きな理由があります。
まずは、この絵をご覧ください。
葛飾北斎《百人一首うはかゑとき 小野の小町》 すみだ北斎美術館蔵(前期)
こちらは、百人一首でも特に有名な一首、
小野小町の「花の色はうつりにけりないたつらに
わか身よにふるながめせしまに」を題材にした作品です。
桜こそ描かれていますが、率直に言って、
どのあたりがどう「花の色は~」の歌なのでしょうか??
解説によれば、染め物をする人が、
おそらく「色はうつりにけり」を表しているとのこと。
・・・・・ムズっ!
そう。《百人一首乳母かゑとき》は難解なのです。
“子どもにわかりやすく”と謳いながらも、その実は難解も難解。
北斎が百人一首をどう解釈しビジュアル化したのか、
北斎の研究者でさえも頭を抱えるほどの難易度の高さなのです。
現在もなお、これという完全回答は存在していないとのこと。
我こそは謎ときに自信があるという方、
是非、北斎からの挑戦状(?)にチャレンジしてみてください。
なお、全27図確認されているシリーズ作品のうち、
すみだ北斎美術館は、23図を所蔵しているそうです。
開館以来初めて、前後期を通じて、
今回の展覧会で一挙にまとめて出展されています。
この貴重な機会をどうぞお見逃しなく!
ちなみに。
シリーズが打ち切りになったのには、
こんな理由もあったのかもしれません。
葛飾北斎《百人一首宇波か縁説 権中納言定家》 すみだ北斎美術館蔵(前期)
葛飾北斎《百人一首姥か恵とき 大中臣能宣朝臣》 すみだ北斎美術館蔵(作品を替えて通期展示)
作品としての完成度はもちろん高いと思うのですが。
「冨嶽三十六景」や『北斎漫画』で、
なんとなく見たことがあるようなキャラが、そこかしこに・・・。
北斎先生の完全新作であるはずなのに、
どうも昔の人気作の焼き直しに思えてしまう。
鳥○明先生の新作が長続きしないのと、
どこか通ずるものがあるような気がしました。