年間に数多くの公募展が開催されていることから、
「公募展のふるさと」と称されているという東京都美術館。
そんな東京都美術館ならではの展覧会シリーズが、2017年より毎年開催されています。
その名も、上野アーティストプロジェクト。
公募団体で活躍している作家を紹介する展覧会シリーズです。
第6弾となる現在開催中の展覧会は、
“美をつむぐ源氏物語―めぐり逢ひける えには深しな―”と題し、
それぞれ異なる公募団体で活躍する7人の作家が紹介されています。
テーマは、2024年の大河ドラマの題材にも決まった、
世界最古の長編小説としても知られる『源氏物語』です。
まずはじめに紹介されていたのは、長年にわたって、
『源氏物語』をモチーフに作品を制作し続けている2人の書家。
1人は、日書展における最高賞、
サンスター国際賞を今年受賞した鷹野理芳さん。
そして、もう一人は、国内で初めて書道学科が設立された大学、
大東文化大学で教授で、「かな」のスペシャリストとしても知られる高木厚人さん。
『源氏物語』には、795首の和歌が収められているそうで。
それらの和歌が流れるような美しい字で書かれていました。
しかも、ただ美しいだけでなく。
書かれた字の強弱や墨の濃淡により、
抑揚が感じられ、まるで歌っているかのように感じられました。
そういえば、バラエティ番組のテロップも、
セリフによって、字の大きさやフォントが使い分けられていますよね。
書もそういう風に楽しめばいいのかと、苦手意識が少し和らぎました。
さて、展覧会では書以外のジャンルの作家による、
『源氏物語』をモチーフにした作品の数々が紹介されています。
その中には、日本画の重鎮、石踊達哉さんや、
世界でも珍しい手書き更紗芸術家の青木寿恵さんによる作品も。
個人的に特に印象に残っているのは、
ガラス作家の玉田恭子さんによる《紫之にき》です。
実際の『源氏物語』は、こんな色では無いですし、
こんな形でも無いですし、ましてやガラス製でもありません。
ということは、もちろんわかっているのですが。
目に飛び込んできた瞬間に、
「あっ!『源氏物語』だ!」
と、思ってしまいました。
『源氏物語』をビジュアル化したら、絶対にこんな感じ。
そんな圧倒的説得力がありました。
玉田さんの他のガラス作品も同様で。
『竹取物語』でも『枕草子』でもなく、『源氏物語』。
そんな圧倒的説得力を放っていました。
それから、もう一人印象的だったのが、渡邊裕公です。
『源氏物語』をテーマにした展覧会といいながら、
『源氏物語』がモチーフになっていたのは、こちらの《千年之恋~源氏物語~》だけ。
それはそうと、渡邊さんの絵は、
一見すると、ただの日本画に思えます。
少し色が薄いので、パステル画のように感じられるかもしれません。
しかし、これらの絵はすべて、なんとカラーボールペンで描かれています。
まず、太さが違うカラーボールペンを使い分け、
ハッチングで線を重ねるように描いていくのだそう。
そして、その後、点描で密度を高めていく、
という気の遠くなるような作業で制作されているそうです。
素通り厳禁。
是非、画面のギリギリ近くまでお立ち寄りくださいませ。
ちなみに。
現在、東京都美術館では、
“源氏物語と江戸文化”が同時開催中。
こちらは、東京都江戸東京博物館のコレクションを中心に、
江戸文化の中で生まれた『源氏物語』関連の作品が紹介されています。
狩野派による掛軸もあれば、
源氏香をデザインに取り入れた型紙も展示されていました。
出展されていた数々の作品の中で、
個人的に気になったのは、歌川国貞による浮世絵《夏座舗月夕顔》。
その画面の中で、妙な眼鏡をかけている人を発見。
天才発明家がかけていそうな眼鏡です。
江戸時代にバックトゥザフューチャーしてきた人物なのかもしれません。