世界一の伊藤若冲のコレクターとして知られる、
アメリカのエツコ&ジョー・プライス夫妻の江戸絵画コレクション、
通称、プライスコレクション約190点を出光美術館が一括購入した。
そんな美術界衝撃のニュースが報じられたのは、2019年のことでした。
まさか、あのプライスコレクションが、
これからは日本国内で観られるだなんて!
若冲ファン、日本美術ファンにとっては嬉しいサプライズでした。
さて、本来であれば、購入された翌年2020年に、
そのお披露目の展覧会が予定されていましたが、
新型コロナウイルスの影響で、予定は白紙に。
それから1年が経ち、2年が経ち、
プライスコレクションがお披露目される機会は無く。
すっかりその存在を忘れ始めたこのタイミングで、
プライスコレクションを初披露する展覧会がスタートしました。
その名も、“江戸絵画の華”。
プライスコレクション約190点の中から、
選りすぐりの約80点を2期に分けて紹介する展覧会です。
現在開催されているのは、〈第1部〉若冲と江戸絵画。
プライスコレクションの中核をなす若冲作品が一挙公開されています。
伊藤若冲《寿老・蜃気楼・梅に鳩図》
それらの中には、もちろん若冲のあの代表作も。
宇多田ヒカルの『SAKURAドロップス』のPVにも登場する《鳥獣花木図屏風》です。
この作品を語る上で欠かせないのが、
伊藤若冲オリジナルの技法「升目描き」。
離れて観る分には、そのスゴさが伝わりづらいのですが、
画面に近づいて観ると、升目がビッシリと描かれているのがわかります。
では、升目描きとはどんな技法なのか、簡単に説明いたしましょう。
まず画面全体に、縦横約1cm間隔で線を引き〼。
そして、その中にさらに一つのカラーブロック、
場合によっては、9個のカラーブロックで埋めていき〼。
説明自体は簡単に済み〼が、
いざやってみようとなると、その労力は桁違い。
普通の絵師には、思い付かない、
仮に思い付いたとしても、実際にやろうとは思わない技法です。
なお、《鳥獣花木図屏風》全体では、8万6000個の升目が描かれているそう。
若冲の苦労が偲ばれ〼。
と、ついつい、その細かい作業に目が行ってしまいますが、
改めて、《鳥獣花木図屏風》を隅から隅まで観てみたところ、
意外と、ヘンテコなキャラが多く描かれていることに気が付きました。
実は、ゆるキャラの宝庫。
それが、《鳥獣花木図屏風》です。
個人的に一番のお気に入りは、
手が長いにもほどがあるテナガザル。
ゴムゴムの実を食べた・・・のか?
出展されていた若冲作品の中で、
もう一つ印象に残っているのが、《黄檗山萬福寺境内図》。
若冲としては珍しい風景画とのこと。
萬福寺の境内をただ描くのではなく、
まるでドローンから見た光景のように描いたところに、
若冲の非凡さ、奇才ぶりがいかんなく発揮されています。
また、右下に描かれた岩の描写も独特。
どことなく、ダリのシュルレアリスムの絵画を彷彿とさせるものがありました。
ちなみに。
展覧会ではもちろん、若冲以外の作品も充実しています。
中でも、雪の描写が秀逸な礒田湖龍斎《雪中美人図》や、
北斎の師匠であった勝川春章による《二美人図》は必見です。
他にもオススメ作品は多々ありますが、
個人的に推したいのは、竹田春信によるこちらの肉筆画。
《達磨遊女異装図》です。
達磨と遊女が、衣服を取りかえっこするという斬新な一枚。
ビックリするくらいに、達磨は着物が似合っていません。
なのに、本人はまんざらでもなさそうです。
その感じに、若干イラっとさせられました。
転べばいいのに。