1994年、JR立川駅北口側に、
世界的なパブリックアートエリアが誕生しました。
その名は、ファーレ立川。
ディレクターを務めたのは、北川フラムさん。
越後妻有の大地の芸術祭や、
瀬戸内国際芸術祭のディレクターを務める、
日本を代表するアートディレクター、ギャラリストです。
そんな北川フラムさんの出世作ともいえるプロジェクトが、ファーレ立川。
約6ヘクタールの敷地内に、36ヶ国92人のアーティストの作品109点が点在しています。
それらの中には、20世紀アメリカを代表するロバート・ラウシェンバーグや、
2014年にパリで開催された回顧展で60万人を集めたニキ・ド・サンファルを筆頭に、
ドナルド・ジャッド、クレス・オルデンバーグ、篠原有司男さん、宮島達男さんなどなど、
美術史に名を残す、もしくは、美術界のレジェンドともいうべきアーティストが多く含まれています。
ちなみに。
ファーレ立川の作品の最大のポイントは、
一般的なパブリックアートの作品とは違って、
車止めやベンチ、街灯、換気口など街の機能を併せ持っていること。
ちゃんと役に立つ(?)美術作品ばかりなのです。
さてさて、そんなファーレ立川の作品が、
109点から108点になってしまうかもしれないという、
何ともショッキングなニュースが、昨年報じられました。
とある作品だけが無くなってしまう可能性が出てきたのです。
その作品が、こちら↓
続・無料で観れる美術百選032 岡﨑乾二郎
《Mount Ida─イーデーの山(少年パリスはまだ羊飼いをしている)》
作品のタイトルも長めなら、
幅25mと作品そのものも長め。
作者は、造形作家としても批評家としても活躍する岡﨑乾二郎さん。
当時まだアートではあまりコンピューターを使用し、
6個の排気口を覆う構造も兼ね備えたこの美術作品を作り上げました。
なお、岡崎さん自身のテキストには、こうあります。
「誰にも占拠されない、誰の土地でもない空白を
彫刻の内側(この彫刻の中心には換気口という実際の穴もあります、
その穴の上に人は立てない)に置いて、
そこに人間の手の侵入から逃れた自然、植栽をおき 鳥や動物たちを招く。」
一見すると、ただのカラフルなフェンスですが、
この巨大な作品の中に、一種の聖域を作ろうとしたわけですね。
そんな素敵なコンセプトを持つ作品が、
立川高島屋S.C.の敷地内に誕生して、約20年。
髙島屋立川店が1月31日に閉店し、
全館をリニューアルする計画に合わせて、
岡崎さんの作品も撤去されることが決まったのです。
長年、自然を人の侵入から守り続けてきた作品が、
髙島屋という大企業に侵入されて(?)、終焉を迎えるだなんて。
皮肉にもほどがある話です。
ということで、このニュースが報じられてから、
岡崎さん本人だけでなく、美術批評家やアートメディアなど、
多くの美術関係者たちが、撤去を撤回を求めて、声をあげてきました。
そして、つい先日1月19日。
高島屋より撤去を撤回し、保存していく旨が発表されました!
少年パリスは、これからも羊飼いをしていられそうです。
保存が決定した翌日、たまたま立川に用事があったので、
改めて、《Mount Ida ─ イーデーの山(少年パリスはまだ羊飼いをしている)》を観てきました。
保存が決定したからでしょうか。
心なしか、普段の冬より、
緑が青々しているような気がしました。
赤い実もはじけてました。
首を宣告されてからの大逆転。
余命を告げられてからの完全復活。
今後、この作品、この場所が、
何かしらのパワースポットのように崇められるかもしれません。
<無料で観れる美術 データ>
立川高島屋S.C.
住所:東京都立川市曙町2-39-3
アクセス:○JR 「立川」駅よる徒歩3分